【ECMOトラブル】人工肺の高さによってエアを引き込む原理と対策

人工肺エア混入

 
みなさんは集中治療室でのECMO稼働中、人工肺の高さに注目していますか?

人工肺の高さが患者さんの心臓よりも高い位置にあると、人工肺から回路内にエアを引き込む恐れがあります。

なぜその様な事が起こってしまうのか、図を用いて詳しく説明したいと思います。

おそらくどの教科書にも載っていない内容ですが、とても大事な事ですのでしっかりイメージしてみて欲しいと思います。

ECMO回路内圧と右房圧

まず、この現象をイメージしやすい様にVV-ECMO駆動中の場合で考えてみたいと思います。

VV-ECMOの駆動中では、内頸静脈に送血カニューレが、大腿静脈に送血カニューレが挿入されているかと思います。(内頸静脈に脱血カニューレ、大腿静脈に脱血カニューレの場合もあり。)

この時それぞれのカニューレの先端はどちらも右房の付近に位置しています。
 
 
ECMOの遠心ポンプが回転している場合、その回転数によって変動はしますが、脱血回路側はおよそ-150mmHg程度の陰圧、遠心ポンプよりも先の送血回路側はおよそ20mmHg程度の陽圧がかかっています。

もちろん人工肺も遠心ポンプよりも先にあるので同等の陽圧がかかっています。

ECMO回路図①
 
ここで遠心ポンプが停止してしまったと仮定します。

すると回路内の圧はどう変化するでしょう?
 
 
初めに送血・脱血カニューレの先端は右房付近にあると言いました。

右房圧は通常5mmHg程度の圧しかかかっていません。

と、言うことは遠心ポンプが停止して余計な圧が掛からないとなると、脱血回路および送血回路も右房圧と同じ5mmHg程度の圧になります。

つまり、遠心ポンプの停止中は回路内圧 ≒ 右房圧となり得ます。

ECMO回路図②
 

人工肺と落差

もしも上記の様な環境で、人工肺が患者さんの心臓よりも高い位置にあるとどうなるのでしょう?

血液(液体)は、通常高い位置から低い位置へ、圧力の高い方から低い方へと向かって流れようとします。

人工肺が高い位置にあると、人工肺と心臓との間で落差が生じ、人工肺側から右房へ向けて血液が落ちる様に流れていきます。

この時に人工肺からエアを引き込んでしまいます。

ECMO回路図③
 
 
ではエアは人工肺のどこから内部へと侵入してくるのか?

それは人工肺が血液のガス交換を行うために存在する孔(ポア)です。
 
 
人工肺は中空糸と呼ばれる筒状の素材が何層にも織り畳まれており、この中空糸の中を酸素が、外を血液が流れています。

中空糸には微細な孔が無数に存在し、この孔を介して血液と酸素が触れ合う事でガス交換が行われています。

孔は赤血球に比べてはるかに小さいので、通常赤血球が中空糸の中に漏れ出ることはありません。

孔の表面張力により、血漿成分が漏れ出ることも導入初期の段階ではありません。

しかし人工肺が落差や陰圧が加わわった時、孔から人工肺の血液相へエアが侵入してきます。

人工肺内部のイメージ
そしてここまでの解説で、遠心ポンプが止まった時と説明していますが、これは故障による遠心ポンプの停止だけではありません。

例えば脱血不良が発生した時です。

脱血不良時はポンプは回り続けていても血液の吸引は一瞬ストップした状態になります。

一瞬であっても回路内の還流が止まると回路内圧は右房圧と等しくなり、ここに人工肺に落差が加わると、まさに一瞬にして人工肺内にエアを引き込む恐れがあります。

そして脱血不良が解除され回路内の血液還流が再開すると、先ほど引き込んだエアを、送血流に乗せて患者さんに送ってしまう危険があります。
 
 
脱血不良はECMO駆動中の発生頻度としては少なくありませんし、いつ起こるかわかりません。

これらのことを念頭に、十分注意して管理しなければなりません。
 

 

まとめ

ここまでの説明をまとめます。

① 脱血(送血)カニューレは右房付近にある。

② 脱血不良も含め、ポンプ機能が停止するとECMO回路内圧は右房圧(約5mmHg)とほぼ等しくなる。

③ この時、人工肺が患者さんの心臓(右房)の位置よりも高い位置にあると、落差により人工肺の血液が右房側へ落ち込む様に流れる。

④ 流れ落ちる血液に引かれる様に、人工肺中空糸の孔(ポア)からエアを引き込む。
 
 

このトラブルの対策

人工肺の位置が高い事で起こるエア混入の危険性が伝わりましたでしょうか。

このトラブルを未然に防ぐのは簡単です。

人工肺の位置を患者さんの心臓よりも低い位置にすればいいのです。

こうする事でポンプ機能がストップしても人工肺に落差による陰圧が加わることはほぼありません。

ECMOの管理を行う機会のある方、ぜひ人工肺の位置や回路内圧にも注目してみて下さい。
 
 
ちなみに人工肺の位置は低ければ低いだけ安全とも限りません。

人工肺の位置が低いと言うことは患者さんからの距離が離れるため、回路の長さが足らなくなる事が考えられます。

体位変換やベッド移動などに苦労するかもしれません。

また、人工肺や回路が床に近すぎると単純に不潔です。

各施設で最も管理しやすい位置を探してみて下さい。
 
 


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