【図説】V-V ECMOのリサーキュレーション率とは

V-V ECMO,リサーキュレーション率

 

V-V ECMOとは

V-V ECMOとは呼吸補助を目的としたECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation)の事を言います。

初めの「V-V」とは脱血部位と送血部位のことを表しており、「Veno-Venous(bypass)」、つまり、静脈脱血/静脈送血であることを意味しています。
 
 
V-V ECMOはARDSなどの重症な呼吸不全が適応になります。

自己肺の状態がかなり悪く、ガス交換能が著しく低下しているので、人工肺を使ってガス交換機能を肩代わりします。

その間に自己肺を休ませ、リクルートメントする為の時間を稼ぐ事が主な治療目的になります。
 
 

リサーキュレーション率とは

リサーキュレーション(Re Circulation)とは、人工肺によってガス交換を施され、送血した血液の一部が再び脱血されてしまう現象のことを言います。

日本語では再循環と言います。

その割合を示したものがリサーキュレーション率です。

V-V ECMOでは脱血管と送血管の先端の位置が同じ右心房付近に留置されるので、どうしても送血の一部が脱血されていきます。

すなわち、少なくとも30〜50%ほどのリサーキュレーションは必ず起こります
 
 
仮にリサーキュレーション率が50%であったとすると、送血された酸素をたくさん含んだ血液の内、半分は再び脱血されていき、回路の中をぐるぐる廻ることになります。

これはすなわちV-V ECMOの効率が落ちていることを示します。

<上大静脈脱血-下大静脈送血の場合>
V-V ECMO,リサーキュレーション率

<下大静脈脱血-上大静脈送血の場合>
V-V ECMO,リサーキュレーション率
 
 

リサーキュレーション率の計算方法

リサーキュレーション率の計算は次の式から算出する事が出来ます。

V-V ECMO,リサーキュレーション

【脱血される血液の酸素飽和度】は、脱血回路の採血ポートから採血した血液のSO2の値を当てはめます。

同様に【送血される血液の酸素飽和度】は、送血回路の採血ポートから採血した血液のSO2の値を当てはめます。

この値は人工肺でたっぷり酸素を受け取った直後の血液の値になるので、SO2は限りなく常に100%に近く、値は1になります。
 
 
後半のSvO2の値には注意が必要です。SvO2は混合静脈血酸素飽和度の事で、正確には、
①上大静脈、
②下大静脈、
③冠状静脈

の血液を混合したものになります。

しかし、V-V ECMO稼働中では送血管からの血液も合流してくるので、正しい混合静脈血酸素飽和度の値は実は分かりません。

そこで実際の臨床では、中心静脈ラインの値を代用する事が多いです。

右内頸静脈および右大腿静脈にはECMOのカニューレが挿入されているでしょうから、左内頸静脈または左大腿静脈から挿入されたブラッドアクセスから採血します。

その値(参考値)を上記式のSvO2に当てはめると、リサーキュレーション率を推定することが出来ます。
 
 
【例】

脱血回路の採血ポートから採血した血液のSO2(cSvO2)が85%、
左内頸静脈に留置されたCVカテのSO2が75%の時、
 
R(リサーキュレーション率)=(0.85 — 0.75)/(1 — 0.75)
=0.1 / 0.25
=0.4 → 40%

リサーキュレーション率は40%と計算する事が出来ます。
 
 
SvO2についてより理解を深めたい方はコチラの記事を参考にしてください。

 

なぜリサーキュレーション率を考える必要があるのか

リサーキュレーション率を考えることで、「全身にどれだけの酸素を送り届ける事ができているか?」を予測する事が出来ます。

V-V ECMO管理中は、
1)ラングレストにより人工呼吸器によるガス交換はないものとする
2)心機能は正常である

という点を踏まえた上で次の場合を考えてみてください。
 

リサーキュレーション率が高い場合

仮にリサーキュレーション率が80%と高い場合、ECMOの人工肺で酸素を受け取った送血液の80%が再び脱血されていきます。

つまり酸素化血の80%は右室、肺、左室、全身へは拍出されていきません。

全身へと拍出されていく酸素化血はたったの20%だけです。

さらにその血液は上大静脈と下大静脈から灌流してきた静脈血も含むので、酸素量は相対的に低下します。

V-V ECMO,リサーキュレーション率
 
 

リサーキュレーション率が低い場合

仮にリサーキュレーション率が20%と低い場合だと、先程とは逆の考えで全身へ拍出される酸素化血の量は相対的に上昇します。

それでも先程と同様に上大静脈と下大静脈から還流してきた静脈血も含まれ、かつ自己肺ではガス交換はされないので酸素飽和度は100%にはならず、SpO2も100%にはなりません。
 
 

リサーキュレーション率が上昇する要因

ポンプの回転数が多い

ECMOの遠心ポンプの回転数が多いという事は、それだけ脱血量も多くなります。

脱血量が多くなると右心房の血液が吸い込まれていく量も多くなるので、リサーキュレーションされる量も増えることは想像しやすいかと思います。

かと言って、ポンプの回転数を下げると今度は送血量も減少してしまうので、調節が難しいところです。
 
 

脱血管と送血管の先端位置が近い

送血管と脱血管の先端位置が近いとリサーキュレーション率は高まります。

送血されてきた血液がそのまま脱血管へ吸われていく様なイメージです。
 
 
送血管の先端位置は右心房の位置から少し引けてしまっても大きな問題はありませんが、脱血管の先端位置は右心房の位置に留めておく事が望ましいです。

脱血管の先端が上大静脈(または下大静脈)の狭くて細いところにあると脱血不良を起こしやすいからです。

脱血管と送血管の先端位置が近い場合は、送血管の方を引いて調整しましょう。
 
 

心機能が低下している

心臓という臓器は本来、右房の血液を右室へ、右室の血液を肺へと拍出していきます。

V-V ECMOのカニューレが挿入されていてもこの動きに変わりはありません。

心機能が良い状態だと右房内の血液を積極的に右室方向へと拍出しようとするので、その血流に引っ張られ、送血液は脱血管ではなく右室方向へと流れるイメージです。

これによりリサーキュレーション率は減少します。

逆に心機能が低下していると右房内の血液を右室方向へと拍出する力が弱いので、送血液は右房内に留まり、リサーキュレーションされていく量が増えます。

リサーキュレーション率が上昇すればする程に、全身への酸素供給量は低下していきます。

前述した様にV-V ECMOは心機能が良い事が前提として導入されますが、管理中に心機能が低下してきてしまった場合は、V-A ECMOへのコンバージョンを検討します。
 
 

讃井將満 (編集), 内野滋彦 (編集), 林 淑朗 (編集), 真弓俊彦 (編集), 武居哲洋 (編集), & 2 その他
 
 
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