【図説】PCPS(VA-ECMO)のミキシングゾーンについて、どこよりも分かりやすく解説します。

ミキシングゾーン1

みなさん集中治療室でPCPS(VA-ECMO)が稼働しているとき、先輩や担当医師からミキシングゾーンを考えるように言われたことはありませんか?

なんとなく難しそうと感じている人が多い様ですが、一度理屈を理解すればとっても簡単で、しかも経過観察をする上ですごく役に立ちます。

今回はミキシングゾーンとは何なのか、どうすれば分かるのか、どう活かすのか、をイラストをたくさん使って解説します。

ミキシングゾーンとは

PCPS稼働中におけるミキシングゾーンとは、「PCPSから送血された血液と自己の心臓が拍出した血液が混ざり合うところ」を表しています。

PCPSは多くの場合、大腿静脈に挿入された脱血カニューレから患者血液を脱血し、大腿動脈に挿入された送血カニューレによって下行大動脈を下から上へ逆流する様に送血されていきます。

この時わずかでも自己の心臓が動いているのなら、自己の心臓によって左室から拍出された血液はPCPSからの送血と衝突し、混ざり合います。

その場所がミキシングゾーンです。

ミキシングゾーンは施設や教科書によってはミキシングポイントと呼んだりもします。

ミキシングゾーン2

ミキシングゾーンの移動

PCPS稼働中においてミキシングゾーンは心機能の回復やPCPSの設定に従い大動脈内を移動します。

その具体例を紹介します。

心機能が低下している時

心機能が低下している時、もしくはPCPS導入直後は自己の心臓からの拍出量は非常に少ないです。

その分PCPSの送血量を多く設定して循環をカバーしているわけですから、自己の心臓による拍出はPCPSからの送血に押され、ミキシングゾーンは中枢側(上行大動脈付近)まで移動することが多いです。

心機能が回復してきた時

心機能が回復してくると、PCPSのサポートを下げても大丈夫になってきます。

PCPSのサポートを下げると自己の心臓による拍出量が増えますし、PCPSの送血量は減るので、ミキシングゾーンはより末梢側へと移動します。

ミキシングゾーン3

この様に、心機能回復の程度とPCPSのサポートとの兼ね合いでミキシングゾーンは大動脈内を移動します。

無理にPCPSサポートを下げた時

注意しなければならないのが、PCPSのサポートを下げるタイミングです。

心機能がまだ十分に回復していないのに強心薬等を使って心臓を起こし、PCPSのサポートを下げると、一旦はミキシングゾーンも末梢側へ移動しますが、無理して余力のなくなった心臓の拍出は、徐々にPCSP送血に押されてきます。

これによりミキシングゾーンは再度中枢側まで移動してくることがあります。

この様な動きをした場合はPCPS離脱時期を再考しなければなりません。
 
 

ミキシングゾーンの位置の推定方法

ミキシングゾーンの位置の推察方法は意外に簡単です。

①右手に挿したA lineから血ガスを測定すること
②そしてPCPSからの送血液の血ガスと比較すること

これだけです。

なぜ右手からなのかと言うと、右上肢の血管が自己の心臓の拍出を最も反映し易いからです。

では、以下のそれぞれの場面でミキシングゾーンがどこにあるか位置を考えてみましょう。

PCPSフルサポートの時

PCPS導入直後でフルサポートの状態を考えてみます。

PCPSの送血液は人工肺によりガス交換されているので、PaO2は150mmHg程度と高値であることが多いです。

そして右手のA lineから採血した血ガスのPaO2が同じく150mmHg程度と高値だったとすると、これはPCPSから送血された酸素を豊富に含んだ血液が、大動脈弓部 → 腕頭動脈 → 右鎖骨化動脈 →…へと流れていき、それがそのまま採血されたことを意味します。

つまりミキシングゾーンは少なくとも腕頭動脈よりも中枢側であることが分かります。

ミキシングゾーン4

ちなみにここで150mmHg程度と具体的に数値を挙げましたが、これはあくまで参考値です。

肝心なのはPCPSの人工肺直後の血ガスと、A lineの血ガスの値がどれくらい近似しているかどうかです。

人工肺直後の血ガスの値は、PCPSを管理している臨床工学技士に尋ねると教えてくれます。

PCPSサポートを下げた時

次に心エコーなどで心機能が徐々に回復してきて、PCPSサポートを下げた状態を考えてみます。

心機能が回復してきてPCPSサポートを下げると、自己の心臓によって拍出される血液量は増え、PCPSの送血量は少なくなります。

そうすると、PCPS送血は大動脈内で自己の拍出に押し返されてきます。

この時に右手のA lineから血ガスを測定すると、先ほどよりもPaO2値は低下していることでしょう。

これは自己の心臓によって拍出された血液とPCPS送血の混合血液が採血されたことを意味しています。

すなわち、ミキシングゾーンはちょうど右腕頭動脈の辺りにあると考えることができます。

ミキシングゾーン5

PCPSサポートをさらに下げた時

最後に、PCPS離脱前の時期でサポートをさらに下げた状態を考えてみます。

PCPSのサポートをさらに下げたとなると、自己の心臓によって拍出される血液量はさらに増え、PCPSの送血量は僅かとなります。

この時に右手のA lineから血ガスを測定すると、PaO2はさらに低下しているハズです。

これは自己の心臓が拍出した血液がそのままA lineまで灌流し、測定されたことを意味します。

あるいはPCPSの送血液が少しだけ混ざっているものかも知れません。
 
 
自己の心臓から拍出される血液は自己の肺でガス交換された血液なので、人工呼吸器の設定を高めに設定しない限りPaO2は高値となりません。

これらのことを考えると、ミキシングゾーンは少なくとも腕頭動脈よりも末梢側にあることが分かります。

ミキシングゾーン6

この様に、ミキシングゾーンは右手のA lineとPCPS送血の血ガスとの比較から推察することができます。

血ガスは単発ではなく継続的に比較しましょう。

パルスオキシメーターを右の指につけておくのも良いと思います。

コツは今目の前にいるPCPS稼働中の患者さんの血管と、心臓、そして血液の流れをイメージすることです。
 

ミキシングゾーンの推察をどう活かすか

 
ミキシングゾーンを推察することによって、心機能の回復を把握することの他に次の様なメリットがあります。

脳へ豊富な酸素を届けることができる

PCPS導入中は、さまざまな内外的要因により呼吸機能も低下していることがあります。

人工呼吸器でカバーできる範囲を超えてしまうと自己の心臓による拍出では十分なガス交換がされてない血液が脳へ還流する可能性があり、脳への酸素供給の低下による低酸素性脳障害が引き起こされることがあります。

ここでミキシングゾーンを把握し、PCPSによって適切に管理した血液が脳へ向かう様にコントロールすると、上記リスクの対応をとることが出来ます。

しかし一方で、心停止蘇生後の症例でPaO2が高いほど、院内死亡率が高く退院時の神経学的転機不良と相関したとする報告もあり、注意が必要です。

自己肺の評価もできる

心機能が回復している時、自己の心臓で拍出された血液は自己の肺でガス交換されたものと説明しました。

ミキシングゾーンが左鎖骨下動脈付近にあると推察している際に右手A lineの血ガスの値が悪いと言うことは、自己肺のガス交換効率が低下していると言うことが分かります。

この様な場合は、肺の状態・人工呼吸器の設定を確認し、肺のリクルートメントも考えていく必要があります。
 
 


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