循環器病棟でペースメーカーの管理や担当をされている方にお聞きします。
ペースメーカーのモードスイッチという機能を知っていますか?
これはDDDモードなどを使用している患者さんが突然心房頻拍や心房細動を起こした時に働く安全機能の様なものです。
多くの場合DDDモードでモードスイッチが働くと、DDIモードに切り替わるように設定されています。
なぜ、DDDモードで心房性頻脈性不整脈が起こると危険なのか?
もしモードスイッチが作動しなかったらどうなるのか?
そもそもDDIモードとはどんなモードなのか、DDDモードとの違いは?
という点について解説していきます。
目次
モードスイッチとは
概要
モードスイッチとはDDDモードなど心房の興奮を監視しているペースメーカーにおいて、心房頻拍や心房細動などの心房性頻拍性不整脈を感知した時に作動する安全機能の様なものです。
例えばDDDモードを使用している患者さんが突然心房頻拍となった場合を考えてみましょう。
DDDモードは前回の投稿で説明した通り、心房の収縮をセンシングして、設定したAVディレイ後に心室ペーシングを行おうとするモードです。
心房頻拍が発症した場合、センシングした心房頻拍の収縮1つ1つに対しAV ディレイ後に心室ペーシングを行ってしまうので、極論、頻拍を起こしている心房の収縮レートと同等の早さで心室が収縮することにもなり得ます。
例えば心室レートが150bpmとかに急上昇したらいかに危険か想像できると思います。
これに対する対応策としてモードスイッチがあり、DDDモードからDDIモードへスイッチ(切り替え)することで心室レートが急上昇することを防ぎます。(後でイラストを用いながら詳しく説明しますね。)
ペースメーカーは心臓の動きを直接制御する医療機器なので、様々な安全機能(オプション)が搭載されており、モードスイッチもこれに含まれます。
ペースメーカーは様々なメーカー(会社)から販売されていますが、モードスイッチ機能は全てのメーカーで扱われているオプションです。
また「モードスイッチ」とは機能としての総称であり、メーカーごとに微妙に呼び方が違うので注意して下さい。
各社、モードスイッチに該当するオプション名称↓
・Medtronic(メドトロニック)社:
→モードスイッチ
・BIOTRONIK(バイオトロニック)社:
→モードスイッチ
・Boston Scientific(ボストンサイエンティフィック)社:
→Atrial Fullter Response(AFR)
・Abbott(SJM)(アボット)社:
→オートモードスイッチ
・LivaNova(Sorin)(リヴァノヴァ)社:
→フォールバックモードスイッチ(FMS)
モードスイッチが使用できる機種
モードスイッチ機能は全てのメーカーで扱われていると説明しましたが、使用出来ない機種もあります。
それはシングルチャンバー ペースメーカーです。
あまり聞き馴染みのない言葉かも知れませんが、これは分かりやすく言うとリード線が1本だけのペースメーカーのことです。
例えば心室だけにリード線を留置し、VVIモードで使用しているペースメーカーは、シングルチャンバーペースメーカーと分類されます。
心房だけにリード線を留置し、AAIモードで使用しているペースメーカーも、シングルチャンバーペースメーカーです。
ここでの言葉の意味として、シングルとは「1つの」、チャンバーとは「部屋・心腔」のことを意味しています。
つまりシングルチャンバーペースメーカーとは、心房もしくは心室のどちらか1つの心腔をターゲットとして機能しているペースメーカーです。
これに対し、リード線が心房と心室の両方に留置されたものをディアルチャンバー ペースメーカーと呼び、分類されます。
デュアルとは「2つの」という意味があるので、心房と心室の2つの心腔をターゲットとしているペースメーカーのことを指し、心房も心室も見ているのでモードスイッチ機能も使用できます。
DDDとDDIの違い
DDDモードとは
DDDモードに関してはコチラの記事で具体例を使って詳しく説明していますので、よく分からない場合は一度確認してみて下さい。
DDIモードとは
DDIモードは、あえてNBGコードでいうと、
・ペーシング(刺激)部位は心房と心室、
・センシング(感知)部位も心房と心室、
・動作様式はインヒビット(抑制)。
ということになりますね。
DDDモードと違うところは動作様式だけで、DDIモードでは【T:Triggger(同期)機能】がありません。
DDDモードの動作様式に含まれる「同期」とは、「AVディレイ」という設定を組むことで心房の動きからタイミングをみて心室をペーシングする(または抑制する)ことです。
DDIモードでは房室同期はなく動作様式は抑制のみなので、心房と心室がそれぞれ独立してAAIモードとVVIモードとして動作していると考えてみるとイメージしやすいかも知れません。
DDDモードとDDIモードの違いは上記の通りですが、この違いは言葉だけで理解するにはやや難しいと思います。
以下にイラストを使って具体的に説明しますので、頑張ってイメージをつけてみて下さい。
これらが理解できると、DDDモードとDDIモードの違いは理解できたも同然です。
モードスイッチの具体例
ではここからDDDモード使用中に心房頻拍が発生し、DDIモードにモードスイッチした際の動きをストーリー仕立てに解説していきます。
DDDモードで問題なく経過中
DDDモードは心房と心室の両方を見ています(センシング)。
そしてこの時DDDモードとしてAVディレイ(時差)が設定されていますので、心房の興奮をセンシングしてからAVディレイ後に心室ペーシングが行われています。
DDDモード中に心房頻拍が起こった場合
ここで突然心房心拍が発生しました。
心房頻拍が発生した直後はまだDDDモードのままです。
心房頻拍により、心房の興奮は異常に早くなっています。
DDDモードでは、この異常に早くなった心房の興奮1つ1つに対してAVディレイ後に心室ペーシングを行なってしまうので、結果として心室の収縮レートも急上昇してしまっています。
DDIモードに切り替わった場合
数秒後、ペースメーカーは早すぎる心房興奮から、「心房頻拍が発生した!」と判断しました。
ここでオードスイッチがONとなり、DDDモードからDDIモードへ切り替わります。
DDIモードではAVディレイによる心房-心室間の同期性は解除されます。
房室同期はなく動作様式は抑制のみなので、心室だけに関して言うとVVIモードで動作しているのと同じ様になります。
VVIなので心室の自己心拍があれば、心室ペーシングは抑制(インヒビット)され、心室自己心拍がなければ設定したペーシングレートに応じたタイミングで心室ペーシングが行われます。
ちなみにモードスイッチが作動しても、はじめに設定されていたペーシングレートは変わりません。
イラストでは元々ペーシングレートは60回/分に設定されており、DDIにモードスイッチした後も自己心拍はない様なので、60回/分=1秒に1回の間隔で心室ペーシングが行われています。
心房頻拍が停止した後
DDIにモードスイッチされ、しばらく経って心房頻拍は停止しサイナスリズムに復帰しました。
心房の興奮が安定するとペースメーカーは、「心房頻拍が停止した!」と判断してモードを元のDDDに戻します。
これにより再び心房同期のとれた動作様式で稼働していきます。
再び心房頻拍が発生してもモードスイッチは何度でも作動することが出来ます。
うまく説明できていましたか? 参考になった場合は「いいね!」「シェア」「ツイート」などで教えて下さい!
いつもわかりやすい資料で勉強させていただきありがとうございます!
質問なのですがAT出現時のDDIではSVのデータはDDDに比べると低下傾向になりますか?
コメントありがとうございます!
低下傾向になると思います。
AT出現時にDDDのままではHRが急上昇し、心室が十分に拡張する間もなく拍出されていくのでSVは低下すると言う考えです。
DDIにモードスイッチした場合では房室同期が出来なくなってうので、これもSVはサイナスリズム時よりは劣りますが
DDDモード時と比較すると軽度かなと思います。
コメント失礼します。
質問なんですがもし、慢性的に心房頻拍が発生した場合ペースメーカの設定としてVVIorDDIどちらが良いとかありますか?理由もあればお願いしたいです。
ご質問ありがとうございます!
ATなのであれば心房ペーシングでATが停止することを期待してDDIに設定します。
chronicのAFであり、停止させる事が出来ないのであれば電池の消費を抑える為にVVIで心房センシングをOFFにします。
DDIで心房をセンシングし、エピソードとしてAFが記録され続けると電池の消費量が増えます。