ペースメーカーの設定でDDDモードというものがあります。
これは心房と心室どちらに対してもペーシング刺激を与えることが可能で、VVIモードに比べてより生理的な動作を行うことができます。
しかし仕組みの複雑さから、看護師さんなど苦手意識を持たれている人も多いかと思います。
そこで今回は、ペースメーカーのDDDモードについてイラストや具体例を多数用いて解説したいと思います。
目次
DDDモードとは
DDDモードは、主に房室ブロックの患者さんに対して設定されることの多いモードの1つです。
設定した心拍数を担保するだけならVVIモードでも構わないのですが、DDDモードでは心房と心室を収縮させるタイミングをコントロールする事で、より生理的な動作を行うことが可能となります。
NBGコード
ペースメーカーの動作はNBGコードと呼ばれる3文字の(たまに4文字にもなる)のアルファベットで表されます。
1文字目はペーシング(刺激)部位、2文字目はセンシング(感知)部位、3文字目は動作様式(どの様にペーシングするのか、またはペーシングしないのか)を表します。
そしてアルファベットは、ペーシング・センシング部位では、A、V、D、O、の4パターンで示され、それぞれ、
A:心房(Atrium)
V:心室(Ventricle)
D:両方(Dual)
O:刺激しない
を表しています。
動作様式では、I、T、D、Oの4パターンで示され、それぞれ、
I:抑制(Inhibit)
T:同期(Trigger)
D:両方(Dual)
O:固定
を表します。
つまり、DDDモードは、
・ペーシング(刺激)部位は心房と心室、
・センシング(感知)部位も心房と心室、
・動作様式はインヒビット(抑制)とトリガー(同期)の両方
ということになりますね。
コレを分かりやすくまとめると、次のイラストの様になります。
動作様式
DDDモードで特に私たちを悩ませるのは、動作様式のD(抑制と同期の両方)だと思います。
抑制(Inhibit)はVVIモードなどでもお馴染みの動作ですね。
では同期:T(Trigger)とは何なのでしょうか?
これにはあまり馴染みがないと思います。
DDDモードにおける同期とは、心房の収縮に対する心室収縮のタイミングをコントロールする事と考えてください。
分かりやすく説明すると、心房が収縮して、その何秒後に心室を収縮させるか?です。
これはDDDモードにおいて必須の設定項目となるAVディレイによってコントロールされます。
具体的には、以下に説明するDDDモードの使用例にて詳しく説明することとしましょう。
方法
DDDモードは心房と心室の両方をターゲットとして動作するモードです。
なのでDDDモードを使用するためには、心房と心室にリード線がそれぞれ1本ずつ入っていなければ使用することは出来ません。
一時的(テンポラリー)ペースメーカーを用いる場合も、心房と心室へリード線がそれぞれ1本ずつ入っていればDDDモードを使用することが出来ます。
ちなみにこの様に心房と心室にリード線を入れて、2つの部屋をターゲットとしている方法をデュアルチャンバーペースメーカーとも言います。
デュアルは2つの、チャンバーは心房や心室などの心腔の事を意味しています。
DDDモードで重要な設定項目
ペーシングレート
ペースメーカーのモードを考える上で大切なことは、ペーシングレートもセットで考えるということです。
VVIモードではペーシングレートが示されていないと、どのタイミングで心室ペーシングが与えられるのかが分かりません。
DDDモードの場合はペーシングレートが示されていないと、どのタイミングで心房ペーシングが与えられるのかが分かりません。
ペースメーカーはモードの種類に関わらず、必ずペーシングレートもセットで考えてみてください。
AVディレイ
Aは「心房」、Vは「心室」、そしてディレイ(Delay)には「延長」や「遅れ」といった意味があり、これを表しています。
ペースメーカーの世界では、「時差」と考えてみるとイメージがつき易いかも知れません。
AVディレイはAとVの時差なので、要するにA(心房)が収縮した何秒後にV(心室)を収縮させるか、という設定になります。
DDDモードではAVディレイの設定により、この時差を作ってあげることで普通の心臓の動きにより近い動きを再現させています。
これはつまり、より生理的であると言えます。
ちなみに健常な心臓の心房→心室の時差は0.2秒未満です。
0.2秒以上の延長は1度房室ブロックの診断となります。
DDDモードの使用例と波形
ここからは心電図のイラストと一緒に、DDDモード使用時の具体例を見ていきます。
例1.【AVブロックの患者さん】
ペースメーカーの設定は、
・DDDモード
・ペーシングレート 60回/分
・AVディレイ 150ms(0.15秒)
です。
AVブロックの患者さんは、心房の機能は正常で洞房結節からの刺激は出ますが、それを心室へ伝えることができません。
心電図で言うとP波だけが確認でき、それに続くQRS波が出ない状態です。(完全房室ブロックの場合)
この状況下でペースメーカーのDDDモードをスタートさせると、次の様に動作します。
① 心房の機能は正常なのでP波は感知する事ができ、心房はセンシング(抑制)される。
② 心房からの刺激はAVブロックにより自力では心室へ伝えられないので、設定したAVディレイ時間の0.15秒を経過してもR波が確認できない。なので心房をセンシングしてから0.15秒後に心室ペーシング(刺激)が行われる。
DDDモードにおいてこのような動作を、AS-VP(心房センシング-心室ペーシング)と呼びます。
例2.【AVブロックに、SSSも合併している患者さん】
ペースメーカーの設定は、先程と同様、
・DDDモード
・ペーシングレート 60回/分
・AVディレイ 150ms(0.15秒)
です。
SSS(洞機能不全症候群)の患者さんは、心房の機能不全により洞房結節からの刺激が出ません。
さらにAVブロックも併発していると言うことは、ペースメーカーによって心房に刺激を与えても、それを心室へ伝えることも出来ません。
心電図で言うとP波が確認出来ず、仮に確認出来たとしてもそれに続くQRS波はない状態です。
この状況下でペースメーカーのDDDモードをスタートさせると、次の様に動作します。
① 心房は機能不全により、自力で興奮することが出来ない。なのでP波を感知する事が出来ず、設定したペーシングレート60回/分のタイミングで心房ペーシング(刺激)が行われる。
② ペーシングによって心房に与えられた刺激も、AVブロックにより自力では心室へは伝わらない。だから設定したAVディレイ時間の0.15秒を経過してもR波は確認できない。なので心房ペーシング(刺激)が行われてから0.15秒後に心室もペーシング(刺激)が行われる。
DDDモードにおいてこのような動作を、AP-VP(心房ペーシング-心室ペーシング)と呼びます。
例3.【SSSの患者さん】
ペースメーカーの設定は、
・DDDモード
・ペーシングレート 60回/分
・AVディレイ 200ms(0.2秒)
です。
先程の例とはAVディレイだけ変わっています。
SSS(洞機能不全症候群)の患者さんは、心房の機能不全により洞房結節からの刺激が出ません。
しかし、ペースメーカーによって心房に刺激が与えられれば、その刺激を心室へ伝えることは出来ます。
心電図で言うとP波は確認出来ないが、ペーシングを与えることでそれに続くQRS波は確認できる状態です。
この状況下でペースメーカーのDDDモードをスタートさせると、次の様に動作します。
① 心房は機能不全により、自力で興奮することが出来ない。なのでP波を感知する事が出来ず、設定したペーシングレート60回/分のタイミングで心房ペーシング(刺激)が行われる。
② AVブロックはないので、ペースメーカーによって心房にペーシングされた刺激は自力で心室へ伝わる。設定したAVディレイ時間の0.2秒以内に自己心拍としてのR波が出現した場合は、心室に対してペーシングは行わず、インヒビット(抑制)される。
③ 設定したAVディレイ時間の0.2秒を経過しても自己心拍のR波が確認出来ない場合は、心房をペーシングしてから0.2秒後に心室もペーシング(刺激)が行われる。
DDDモードにおいてこのような動作を、AP-VS(心房ペーシング-心室センシング)または、AP-VP(心房ペーシング-心室ペーシング)と呼びます。
AVディレイの設定方法
AVディレイの設定には様々なことを考慮しなければなりません。
DDDモードにおいて、より望ましい設定というのは、なるべく心室ペーシングは行わない設定です。
なぜかと言うと心室ペーシングは本来非生理的な動作であり、QRS幅もwideになり易く、場合によっては心室ペーシングによる心室の収縮では血圧も下がることがあり得るからです。
AVディレイをより長く設定し、なるべく自己心拍による心室の収縮を待った方が生理的であり、ペースメーカーの電池も節約することが出来ます。
しかし、あまりに待ちすぎて心房と心室のタイミングが大きくズレてしまう様では意味がありません。
循環に不利に働かない範囲でAVディレイは長めに設定し、自己心拍が起これば良し、出なければ心室ペーシング、となる様にしましょう。
完全房室ブロックで心房と心室の伝導性が完全に失われた場合ですと、AVディレイを延長して待っていても自己心拍の出現は望めないので、その場合は潔く正常値に近い範囲(120msなど)で設定します。
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