【PCIの合併症】Slow Flowの意味や原因、対処法について

PCIで起こるSlow Flowの原因と対処方

 
Slow FlowはPCI中に起こる合併症の1つです。

PCIは心臓の栄養血管である冠動脈に対して行う治療なので、少しの異変が惨事を引き起こす危険もあります。

今回はPCIで起こり得る代表的な合併症であるSlow Flowに焦点を当てて、原因や注意するべき病態、起きてしまった時の対処法についてまとめておきたいと思います。

Slow Flowとは

PCIにおけるSlow Flow(スロウフロー)とは、教科書的には、「各種デバイスの通過および拡張によって狭窄が解除されたにもかかわらず、解離などの機械的な閉塞なしに標的血管の順行性血流が遅延する現象」とされています。
 
 
私は後輩MEや看護師さん達に対しては、「PCIでは冠動脈の狭窄を解除するためにバルーンやステントを拡げるが、その事でプラークの破片等が冠動脈の末梢に流れていって奥で詰まってしまい、血流が悪くなるコト」と説明しています。
 
 

岡井さん
「Slow Flow」の文字通り、冠動脈血流が「ゆっくりな流れ」になってしまう現象ですね。
 
 
PCI中にSlow Flowが起こると多くの場合で胸痛が生じたり、心電図でも虚血性の変化が認められます。

冠動脈の血流が遅延しているわけですから、何もしないで放っておくと血圧低下、不整脈の出現、循環破綻など、とても危険な状況に陥る可能性があり、迅速な対応が求められます。
 
 
PCIの基本的な手技の手順をまとめた記事はコチラから。

 

Slow Flowの原因

Slow Flowの原因には次のようなものがあります。
 

冠動脈末梢の微小閉塞

冠動脈の狭窄部へワイヤーなどのデバイスを通過させたり、バルーンやステントの拡張を行なった際に、そこにあるプラークの破片や血栓が剥がれ、末梢まで流れてしまうと末梢血管の微小塞栓を招き、Slow Flowとなります。

なので末梢に飛びやすい脂質性で柔らかいプラークのある病変に対するPCIでは注意が必要です。
 
 
また、ローターブレータを使用した場合にもSlow Flowが起こりやすいとされています。

ローターブレータのダイヤモンドチップが削った石灰化病変の破片(カス)が末梢へと流れていくと塞栓を起こすからです。

ローターブレータを使用する場合はノルアドレナリン、ネオシネジン、ニトログリセリン、ベラパミルなどの混合液をあらかじめ用意して行います。
 
 
 

病変部位のPositive Remodelingを認める場合

Positive Remodeling(ポジティブリモデリング)とは、プラークの増大に伴い血管が対象部位よりも明らかに拡張していることです。

Positive Remodelingしている病変部位では不安定プラークが多く、上記と同じくワイヤー、バルーン、ステントと言ったデバイスを通過・拡張させた際に不安定プラークが剥がれるリスクが高いです。

これらが末梢で塞栓をきたしやすいので、Positive Remodelingを認める場合では注意が必要です。
 
 
 

下流域の冠動脈スパスム

冠動脈スパスムとは冠動脈が攣縮(けいれん性の収縮)を起こす現象です。

スパスムは様々な理由が原因で起こりますが、これが起こると冠動脈は細く収縮し冠血流も著しく減少します。

冠動脈攣縮の既往を持っている方や、もともとスパスティックで細い冠動脈の形状をした患者さんに対してPCIを行う場合は、Slow Flowが起こるかも知れないという心づもりで症例に立ち会うといいかも知れません。
 
 
 

CABG後の静脈バイパス血管

大伏在静脈などの静脈血管でCABGを行っている既往のある患者さんの場合は注意が必要です。

CABG(冠動脈バイパス術)で使用される静脈バイパス血管は、血栓やデブリス(組織片)が多く存在しています。

これが抹消にまで飛ぶとSlow Flowの原因となります。

バイパス血管が閉塞してしまいここに対してPCIを行う場合にデバイスを通過させる際は、造影の様子、心電図変化、患者さんの症状の有無を注意深く観察し、Slow Flowを起こしてしまった場合に早急な対応を取れる様にしておきます。
 
 

Slow Flowの具体例

ここからはPCI中にSlow Flowが起こってしまった症例を紹介します。

PCI起こったSlow Flow1

写真では、まずはRCA(右冠動脈)の#3に対してPCIをしようとしており、#4AV方向へガイドワイヤーが挿入されています。

PCIで起こったSlow Flow2

ここで#3に対し、ステントを拡張しました。

その後ステントバルーンを用いて#3部位を適宜POBAしています。

するとここで、心電図においてST上昇を認め、患者さんも胸痛の症状が出現、バイタルも崩れはじめました。

ステント留置前のIVUS画像にて不安定プラークを確認しており、Slow Flow発生の可能性が考えられました。

診断をするためにCAGを行うと、

PCIで起こったSlow Flow3

ステント留置前までは流れていた#4PD方向への血流が明らかに悪くなっており、Slow Flowの発生が確定されました。

Slow Flowはこの様な経過で起こり得ます。
 
 
 
右冠動脈の#4AVと#4PDの見分け方や、その他のAHA分類の覚え方などは、コチラの記事を参考にしてみてください。

 

Slow Flowの対処法

Slow Flowが起こってしまった場合、通常はシグマートやニトロプルシドの冠注・輸液を行い様子を見ます。

末梢の血管を拡張させ、詰まったプラークの破片・組織片を押し流す様なイメージです。

しかしそれでも心電図変化や症状の改善が見られない場合は、血行動態が崩れてしまう前にIABPやPCPSなども考慮します。

しかし大切なのは、症例毎に起こりうる合併症の原因や対策を常に考えてバルーンやフィルターを考慮して手技を行うこと、「そもそも合併症を起こさない」ことを念頭におくことかなと考えています。
 
 
参考:虚血性心筋症の治療:PCIを含めた内科治療の限界
参考:No reflow現象の病態と治療戦略
 
 

 
 
 
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1 個のコメント

  • […] ・術前と比べて狭窄が解除されているかを確認する ・造影でも冠動脈解離や血腫などの合併症が生じていないかを評価する     […]

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