【図説】ペースメーカーのアンダーセンシング・オーバーセンシングについて解説します。

ペースメーカーのアンダーセンシングとオーバーセンシング
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ペースメーカーをつけている患者さんを担当した経験のある人なら、一度はアンダーセンシング、オーバーセンシングという言葉を聞いたことがあると思います。

どちらともセンシング(感知)について起こる得るトラブルですが、「よくわからない」、「教科書を読んでみたけどイマイチ…」という声を聞きます。

そこでペースメーカーのアンダーセンシングとオーバーセンシングについてわかりやすく、VVIモードを例に解説していきたいと思います。

センシングとは

センシングとはSensingと書き、日本語では「感知する・検出する」などと言った意味があります。

何を感知するのかと言うと、ペースメーカーの世界では「心臓の動き」を感知します。

ペースメーカーは本来、心臓に電気刺激(ペーシング)を与えて停止している心臓を動かすためのものですが、タイミングによって心臓が普通に動いている時はペーシングは与えません。

・心臓が動いているのか?
・停止してしまっているのか?

ペーシングを与えるべきかどうかを判断するために、心臓の動きを感知するための動作をセンシングと呼びます。
 
 
ペースメーカーを使用している患者さんの中には、夜間だけ副交感神経優位により徐脈となってしまいペーシングが必要となっている患者さんもいらっしゃいます。

しかし活動的な日中は交感神経優位により自己心拍が保たれ、ほとんどペーシングが打たれることなく、ペースメーカーはセンシングし続けているという場合もあります。
 
 
ペースメーカーのセンシングについて、なんとなくイメージできたでしょうか?

ここで1つ疑問が浮かんでいると思います。
 

ペースメーカーはどうやって心臓の動きをセンシング(感知)しているの?

ここは大切なポイントですよね!

今回の解説では、ここに焦点を当てて説明していきます。
 
 

センシング感度の設定

ペースメーカーのセンシングの設定項目には、センシング感度というものがあります。

センシング感度はテレビのボリュームの様に上げたり下げたりして調節することができるものです。

私はよく学生さんや看護師さんたちに、センシング感度をペースメーカーの「目」👀に例えて説明しています。

センシング感度を調節することは、ペースメーカーの視線の高さを上げたり下げたりすることとイメージしてください。

次にこちらのイラストを見てみてましょう。

ペースメーカーのセンシング感度
心臓の収縮は、心電図において主にR波に反映されます。

そしてR波の大きさは人によったり部位によって違いますよね。

このR波の大きさ(=高さ)のことを文字通り「R波高値」と言うのですが、イラストの心電図ではR波高値は5mVとなっています。
※1マス1mVです。

このR波を見る👀(捉える)ことの出来るペースメーカーの視線の高さを「センシング感度」と言います。

何mVのR波高値かを見るための設定ですので、センシング感度の単位も[mV]で合わせられます。
 
 
イラストでは4mVのセンシング感度(視線の高さ)に対して、R波高値は5mVなので、ペースメーカーの目からはR波がよく見えています。

「R波が見える=心臓は動いている」と判断されるので、この場合はペースメーカーはペーシングは与えません。

つまりセンシング感度の設定は、R波高値よりも低く設定する必要があります。

センシング感度の設定(視線の高さ)がR波高値よりも高い所にあると、R波(収縮)を感知することができず見逃してしまう事になりますからね。

これこそが「アンダーセンシング」と呼ばれる状態です。これについては次で説明しましょう。
 
 

アンダーセンシングとは

アンダーセンシングとは、いわゆるセンシング不全、センシングフェーラー(感知失敗)と呼ばれるペースメーカーの管理で発生する代表的なトラブルの1つです。

アンダーセンシングが発生すると自己心拍を感知出来ないので不要なペーシングにより心電図が乱れてしまったり、タイミングによってはSpike on Tと呼ばれるR on Tに似た危険な心電図変化が起こり得ます。
 
 

アンダーセンシングの原因と注意点

1つ前のイラストではR波高値は5mVでした。

R波の高さは心臓の収縮の強さ・電位の高さをも反映しています。

と言うことは心機能が低下している患者さんの場合は、R波高値が低くなっている可能性もありますよね。

ペースメーカーのアンダーセンシング
このイラストの心電図ではセンシング感度は前と同じ4mVですが、心機能が悪いせいかR波高値は3mVしかありません。

ペースメーカーの視線の高さよりもR波高値が低いので、ペースメーカーの目で心臓の収縮をと捉えることができなくなっています。

これがアンダーセンシングが発生する原因です。

R波がセンシング感度よりも下(アンダー)にあるので、そう呼ばれています。
 
 
アンダーセンシングが発生すると、ペースメーカー本体は心臓の収縮を確認できないので、「心臓が停止してしまったのか?」と誤認識してしまいます。

「わからないけど本当に停止しているとしたら危険なので、今はとりあえずペーシングで心臓を動かそう」との想いから、ペーシングが打たれる事になります。

しかし実際はR波高値が低いだけで心臓はしっかり動いているので、これは不要なペーシングとなってしまい心拍リズムを乱す原因になります。

この不要なペーシングが心電図のT波のタイミングに打たれたとすると、Spike on Tと言う危険な心電図変化となり得ます。

ペースメーカーによるスパイクon T

R on Tと言う言葉は聞いたことがありますか?

これは心筋の受攻期にあたる心電図のT波のタイミングでPVC(心室性期外収縮)が発生し、これがきっかけとなってVF(心室細動)などの致死性不整脈に発展してしまう現象です。

これとほぼ同様の現象がSpike on Tです。Spike on Tが生じると、同様にVFに発展してしまう危険があるので注意が必要です。
 
 

アンダーセンシングの対処法

アンダーセンシングが発生した場合の対処法としては、センシング感度(視線の高さ)をR波高値よりも低く調節し、R波を見える(捉える)様にします。

ただしセンシング感度を低く設定しすぎると、今度は逆にオーバーセンシングを引き起こす原因にもなり得るので注意が必要です。

またアンダーセンシングのもう一つの対処法として、

・センシング極性(Sensing Polarity)を変更する
・リード先端の留置位置を変更する

といった手段も残されています。

※センシング感度(視線の高さ)を低くすることを私たちは「センシング感度を鋭くする」と表現することがあります。これは「小さくて波高値の低いR波でも見逃さないように厳しくした。」と言う意味です。
 
 

オーバーセンシングとは

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オーバーセンシングもアンダーセンシングと同様、ペースメーカーの管理で発生する代表的なトラブルの1つです。

オーバーセンシングはR波ではないものをR波と誤認識してしまう現象です。

臨床経験上、主には大きなP波やT波、患者さんが動いた際の心電図に混入する筋電位がセンシング感度(目線の高さ)に感知されてしまいオーバーセンシングとなる場合が多いですね。

センシング感度よりも高い(オーバー)心電図成分があるので、そう呼ばれています。
 
 

オーバーセンシングの原因と注意点

1つ前のイラストでR波をアンダーセンシングしていたので、センシング感度を低く調節し直したとします。
(センシング感度を4mVから2mVに鋭くした。)

R波高値が3mVだったので、これならR波を見逃さずにアンダーセンシングを回避することができます。

しかしどうでしょう?

前のイラストでは、T波の高さ(T波高値)が2.2mVほどありました。

センシング感度を2mVに調節したら、今度はT波もセンシング感度(視線の高さ)に捉えられる様になってしまいましたね。

これを次のイラストで表すとこんな感じになります。

ペースメーカーのオーバーセンシング
これがオーバーセンシングが生じる原因です。

オーバーセンシングが生じると、ペースメーカーは「R波(らしき)電位はしっかりあるようだ。これならペーシングを打つ必要はないな!」と考え、ペーシングを抑制し続けます。
 
 
この心電図の患者さんの場合は、確かにR波が3mVと低いながらもしっかりあるので、とりあえず心臓は動いています。

しかし、例えば完全房室ブロックの患者さんの場合で、しかもP波がものすごく大きい場合だとどうでしょう?

完全房室ブロックでペースメーカーからのペーシングがなければ心臓は動かなくなってしまいます。

しかしそんな大変な時にペースメーカーはセンシング感度(目線の高さ)にて捉えた大きなP波をR波と勘違いしてしまい、心臓は動いていると思っているのでペーシングを打ってくれません。

よって心臓はいつまでも停止したまま。

オーバーセンシングは、こういった危険な事象を引き起こす恐れがあるので十分に注意が必要です。
 
 

オーバーセンシングの対処法

オーバーセンシングが発生した場合の対処法としては、アンダーセンシングの対処法とは反対で、センシング感度(視線の高さ)を高く調節します。

しかしセンシング感度を高く設定しすぎると、またアンダーセンシングを引き起こしてしまいます。

よって「R波だけを捉え、T波(など)を除くことが出来るレベルにセンシング感度を調節する」ことが求められます。

ペースメーカーのオーバーセンシングの対処法
このイラストの様にセンシング感度2.5mVに調節することで、R波だけを捉えることに成功し、オーバーセンシング・アンダーセンシング両方について対処することが出来ています。

またオーバーセンシングでも同様に、センシング極性(Sensing Polarity)を変更する、リード先端の留置位置を変更するといった手段も取られることがあります。
 
 
※センシング感度(視線の高さ)を高くすることを私たちは「センシング感度を鈍くする」と表現することがあります。これは「大きくて波高値の低いT波を目隠しするように甘くする。」と言う意味です。
 
 
※上記ペースメーカーのセンシンングシステムの説明では、視線の高さで捉えたものを全てR波として認識してしまうかの様に解説していますが、実際とは多少異なります。
実際には波に対する周波数成分やスルーレートを検出し、フィルターをかける事で心房波や心室波を選択的に認識しています。
が、だいたいのイメージとしては上記の説明で十分と思うので、今回の説明では割愛します。

どうしても知りたいという人はコチラの記事を参照してください。

 
 

ノイズによるオーバーセンシング

センシング感度を正しく調節していても高周波電気ノイズや筋電位の混入が発生することでもオーバーセンシングを引き起こす場合があります。
 
 
例えば自己心拍数が30bpm程度しかない患者さんに、ペーシングレート60ppmのVVIペースメーカーを導入していたとします。

レート60ということは1秒間に1回のタイミングでペーシングが打たれています。

そこに筋電位や電気メス使用による高周波電気ノイズが入ってしまいセンシング感度(視線の高さ)を超えてしまうと、それをペースメーカーはR波として判断してしまうのでペーシングは打ちません。

その状態が続いている間はと患者さんは心拍数30bpmで経過してしまい、

ペースメーカーを導入しているはずなのにどうして?
ということになります。

ペースメーカーの電気ノイズによるオーバーセンシング
対処法としては筋電位混入の原因を除去し、電気メスを使用していたなら中断します。

今回の例のようにR波高値が低く、かつT波は高い、ノイズも混入してくるといった場合は非常に難しいですが、
・センシング極性(Sensing Polarity)を変更する
・リード先端の留置位置を変更する

に加えて、

・モードを固定レート型に変更する

といった対応を考慮します。
 

岡井さん
ペースメーカーのトラブル対応を行う時は、患者さんの心拍がどの程度ペースメーカーに依存しているのか確認しよう。
 
この記事では次の教科書を参考にしました。

ペースメーカーに関する基礎から応用まで幅広く描かれているので初心者にもオススメです。


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