冠動脈の解剖はカテ室にてCAG(冠動脈造影検査)やPCI(経皮的冠動脈形成術)の治療に立ち会ったり、検査やPCI術後の管理を行う際に必ず分かる様になっておかなければならない必須の知識です。
もちろん外科的心臓手術であるCABG(冠動脈バイパス術)や、救急領域でのUAP(不安定狭心症)やAMI(急性心筋梗塞)の治療にあたる上でも理解しておく必要があります。
そんな冠動脈の解剖には枝ごとに番号が振り分けられています。
これはアメリカの心臓協会であるAmerican Heart Associationが冠動脈を分類するために区別した番号でAHA分類と言い、日本でもこれを採用しています。
しかしこのAHA分類は1番から15番までと多く(しかも4番は2つある)、人によって冠動脈の走行は微妙に違うので慣れるまでは結構難しいと思います。
そこで今回、冠動脈のAHA分類について、どこからどこまでが何番なのかをイラストを用いてしっかり解説したいと思います。
目次
冠動脈の番号を見分けるコツ
まずは、次項にて解説する冠動脈の番号の見分け方をまとめたものを一覧でお見せします。
(なるべくイメージしやすい言葉で表現しています。)
冠動脈【AHA分類】の見分け方 一覧
#1
右冠動脈の始まりから鋭縁部までを二等分した手前側
#2
右冠動脈の始まりから鋭縁部までを二等分した奥側
#3
鋭縁部(または鋭角枝)から、先の二股に分かれるところまで
#4AV
3番から二股に分かれ、左房と左室の間の方向へ向かっている方
#4PD
3番から二股に分かれ、心尖部の方向へ向かっている方
#5
左冠動脈の始まりから、LADとLCXに分かれるところまで
#6
LADとLCXに分かれたところから、第1中隔枝の出るところまで
#7
LADの第1中隔枝の出たところから、第2対角枝(10番)が出るところまで
#8
LADの第2対角枝(10番)が出たところから、LADの末梢まで
#9
LADから出る中隔枝と反対方向に伸びる枝で、手前にある方
#10
LADから出る中隔枝と反対方向に伸びる枝で、9番よりも奥にある方
#11
LCXに分かれたところから、初めに分岐する大きな枝(12番)が出るところまで
#12
LCXに分かれたところから、初めに分岐する大きな枝
#13
LCXの初めに分岐したところから先へ伸び、14番が出るところまで
#14
13番から分岐し、12番と平行に心臓の側壁を伸びる枝
#15
13番から14番が分岐した後の、13番の続きとなり心臓の裏側を伸びる枝
冠動脈の番号を見分けるコツは、左右の冠動脈に分けて見ていくことです。
冠動脈は大きく分けて、右冠動脈と左冠動脈の2つに分けられます。
右冠動脈は1番〜4番、左冠動脈は5番〜15番です。
そして左冠動脈は左前下行枝と左回旋枝に分けるとさらに覚えやすくなると思います。
左前下行枝は5番〜10番、左回旋枝は11番〜15番です。
まとめると、
・右冠動脈:1番〜4番
・左前下行枝:5番〜10番
・左回旋枝:11番〜15番
となります。
<おまけ>
ちなみに冠動脈の分類は英語で呼ばれたり、記される事が多いので、余裕があれば英語での読み方と表記を覚えておきましょう。
・右冠動脈:RCA(Right Coronary Artery)
・左冠動脈:LCA(Left Coronary Artery)
・左前下行枝:LAD(Left Anterior Descending)
※レフト アンテリオール ディッセンディング
・左回旋枝:LCX(Left Circumflex)
※レフト サーカム フレックス
右冠動脈(RCA)の番号と見分け方
#1:右冠動脈の始まりから鋭縁部までを二等分した手前側
#2:右冠動脈の始まりから鋭縁部までを二等分した奥側
#3:鋭縁部(または鋭角枝)から、先の二股に分かれるところまで
#4AV:3番から二股に分かれ、左房と左室の間の方向へ向かっている方
#4PD:3番から二股に分かれ、心尖部の方向へ向かっている方
鋭縁部とは字のごとく、右室壁の鋭角になっている縁(フチ)の部分の事です。
心臓をある部分で輪切りにして、下から見上げてみると、イラストの様に右室側は尖っていて、左室側は丸みを帯びています。
この様に見える位置をそれぞれ鋭縁部、鈍縁部と呼んでいます。
右冠動脈のスタートの位置(入口部)から鋭縁部までを二等分し、手前か奥かで1番と2番を区別します。
しかし冠動脈の走行や長さは人によって微妙に違います。
鋭縁部がどこなのか判別がしづらい場合や、冠動脈造影の角度によって二等分する場所が分かりにくい場合は、右室枝と呼ばれる血管に注目してみます。
右室枝は、右冠動脈の始まりから鋭縁部までをちょうど二等分した辺りから伸びているので、良い目印になると思います。
ちなみに右室枝に番号はありません。
そのまま「右室枝」と呼びます。
また、鋭縁部の辺りからは鋭角枝と呼ばれる血管が伸びているので、これも良い目印になります。
3番は比較的分かりやすいと思います。
問題は4番です。
4番は#4AVと#4PDの2つに分けられています。
AHAアメリカ心臓協会に文句を言っても始まりませんが、AVとはAtrio Ventricular、ここでは房室結節枝のことを意味しています。
PDとはPosterior Descendingで、日本語では後下行枝と呼びます。
簡単に見分けるコツは、
・3番から二股で分かれた後、上方向に向かって伸びているのは#4AV
・3番から二股で分かれた後、下方向に向かって伸びているのが#4PD
です。
<おまけ>
右冠動脈の番号のないマイナーな枝(今は名前まで覚えなくても大丈夫だと思います。)
・円錐枝:CB(Conus branch)
・洞結節枝:SN(Sinus Node branch)
・右室枝:RV(Right Ventricular branch)
・鋭角枝:AM(Acute Marginal Branch)
左冠動脈(LCA)の番号と見分け方
左前下行枝(LAD)
#5:左冠動脈の始まりから、LADとLCXに分かれるところまで
#6:LADとLCXに分かれたところから、第1中隔枝の出るところまで
#7:LADの第1中隔枝の出たところから、第2対角枝(10番)が出るところまで
#8:LADの第2対角枝(10番)が出たところから、LADの末梢まで
#9:LADから出る中隔枝と反対方向へ伸びる枝で、手前にある方
#10:LADから出る中隔枝と反対方向へ伸びる枝で、9番よりも奥にある方
前述した通り、左冠動脈は左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)の2つに分かれます。
LADは心臓の正面側を真っ直ぐに下る様に伸びる血管です。
左冠動脈のスタートの位置(入口部)からLADとLCXに分かれるところまでが5番であり、最も太いところになります。
ここを別名、左冠動脈主幹部(LMT:Left Main Trunk)とも呼ぶので覚えておきましょう。
6番の目印となる第1中隔枝とは、読んで字のごとく、心臓の中隔壁の方向へ伸びている血管のことです。
中隔枝の太さや数は人によって違う場合もありますが、LADを上流から下る様に見た時に、最初に中隔壁の方向へ分かれている枝を第1中隔枝と呼びます。
そこよりも先が7番と8番になりますが、上記の説明では第2対角枝の場所でこの2つを区切っています。
しかしこの第2対角枝も人によっては非常に小さな枝だったり、そもそも第2対角枝が初めから無いという場合もあります。この様な時は、
#7:第1中隔枝の出たところから、LADの末梢までを二等分した手前側
#8:第1中隔枝の出たところから、LADの末梢までを二等分した奥側
と判断しても良いです。
最後に先程から登場している対角枝ですが、第1対角枝が9番、第2対角枝が10番になります。
前述した様な「確認できる第2対角枝が無い」場合は、その人の冠動脈は10番は無いものと考えてOKです。
ちなみに対角枝は英語ではDiagonal(ダイアゴナール)と呼びます。
実際の臨床では「ダイアゴ」と略して呼んだり、第1・第2対角枝を分けて言う場合は「D-1(ディーワン)」、「D-2(ディーツー)」と呼んでいる人も見かけます。
左回旋枝(LCX)
#11:LCXに分かれたところから、初めに分岐する大きな枝(12番)が出るところまで
#12:LCXに分かれたところから、初めに分岐する大きな枝
#13:LCXの初めに分岐したところから先へ伸び、14番が出るところまで
#14:13番から分岐し、12番と平行に心臓の側壁を伸びる枝
#15:13番から14番が分岐した後の、13番の続きとなり心臓の裏側方向へ伸びる枝
LCXは心臓の裏側の方向へ大きく旋回する様に伸びる血管です。
左冠動脈主幹部(LMT)である5番から分岐するところから始まります。
12番の枝は別名「鈍角枝」と呼ばれ、英語ではOM(Obtuse Marginal branch)と表されます。
13番の枝は後房室間溝(文字通り、心臓裏側の心房と心室の間の溝)を伸びて14番と15番に繋がります。
14番と15番の見分け方は意外とカンタン。
12番と並行に心臓の左横の方向へ向かう枝が14番で、心臓の裏側の方向へ向かう枝が15番です。
14番は別名、後側壁枝と呼ばれます。対して15番の枝は後下行枝と呼ばれます。
<おまけ>
LCXの枝の英語での呼び方と表記
・12番の鈍角枝、鈍縁部:OM(Obtuse Marginal branch)
※オブチューズ マージナル ブランチ
・14番の後側壁枝:PL(Posterior Lateral)
※ポステリオール ラテラール
・15番の後下行枝:PD(Posterior Descending)
※ポステリオール ディッセンディング
スパイダービューでの見え方
スパイダービューとは、透視装置をLAO Caudalの向きにして撮影した時の造影像です。
イラストの様に左冠動脈を左側から、そして下方向から見上げるように写すので、LADが左方向へ、LCXが右方向へ伸びている様に見えます。
このViewでの左冠動脈造影は、足を広げたクモの様に見えることからスパイダーと呼ばれます。
主にLMT(左冠動脈主幹部)から、LADとLCXの分岐する部分をしっかり評価したい時にスパイダービューで造影を行います。
CAG(冠動脈造影検査)では撮影する方向をどんどん変えながら行います。
このスパイダービューなんかは特にそうですが、慣れていないとどっちがどっちだったかよく分からなくなります。
そんな時、左手1本で判断できる良い方法を考案しましたので、ぜひ参考にしてみてください!
冠静脈の解剖
ここまで冠動脈の解剖と見方について紹介しました。
意外と見落とされてしまいがちですが、心臓に冠動脈があると言うことは、冠静脈だって当然あり、各枝には名前がついています。
冠動脈から毛細血管 → 心筋へと流れた血液は、冠静脈のどの枝を通って冠静脈洞(コロナリーサイナス)を還流しているか知っていますでしょうか?
冠動脈を勉強したついでに冠静脈の各枝の名称も勉強して、同世代の仲間達よりもワンステップ上を目指しましょう♪
次の記事にてイラストで紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください!
最後に
通常よく見られる教科書的な冠動脈の見分け方を解説しましたが、教科書通りの冠動脈と言うのはありません。
伸びる枝が長い人や短い人、太い人や細い人など様々です。
主要となる血管が狭窄している場合、側副血行路(コラテラール血管)が発達してきてさらに個性的な形となります。
カルテをよく読み、心電図12誘導・胸部症状の有無・不整脈の有無などから総合的に評価することで正解に近づく事ができます。
特にPCI(経皮的冠動脈形成術)に立ち会う場合は、冠動脈のAHA分類の番号をしっかり理解して治療に臨みましょう。
PCIの手順と合わせて、いま何番の血管を治療しているのかをしっかり理解しながら治療にあたる事が大切です。
↓ 冠動脈の解剖についてかなり参考になった教科書です
うまく説明できていましたか? 参考になった場合は「いいね!」「シェア」「ツイート」などで教えて下さい!