みなさん血ガスを測定した際に、アニオンギャップまで計算していますか?
血ガスの結果で代謝性アシドーシスが示された場合、なぜ代謝性アシドーシスになっているのか、その原因を解明しなければ治療方針は立てられません。
アニオンギャップは代謝性アシドーシスの原因を解明する大切な指標の1つです。
目次
アニオンギャップとは
アニオンギャップとは、簡単に言うと血液中に存在する陽イオンと陰イオンの差(ギャップ)です。
血ガスを測定し代謝性アシドーシスだった場合に、アニオンギャップを計算することで代謝性アシドーシスとなっている原因を鑑別することが出来ます。
この記事の後半部分でも解説していますが、アニオンギャップの値が上昇している場合は不揮発性酸(乳酸とか)の蓄積が原因で代謝性アシドーシスとなっていることが考えられます。
そして代謝性アシドーシスでありアニオンギャップの値が正常範囲内にある場合は、下痢などにより重炭酸が一次的喪失していることに原因があると考えられます。
また稀ですが、アニオンギャップの値が低下している場合は低アルブミン血症が考えられます。
アニオンギャップの計算式
陽イオンは、cat-ion(陽-イオン)から「カチオン」と読み、
陰イオンは、an-ion(陰-イオン)から「アニオン」と読みます。
陽と陰で、陰側(アニオン)を基準にして考えた場合の陽側との差(ギャップ)をアニオン・ギャップと呼んでいます。
この事からもアニオンギャップは、
アニオンギャップ = 陽イオン ー 陰イオン
の、計算式で求めることが出来ます。
血液中に存在する最も代表的な陽イオンは、[Na+]です。
そして陰イオンの代表的なものは、[Cl-]と[HCO3-]です。
これらを先ほどの計算式に当てはめてみると、
アニオンギャップ = [Na+]ー([Cl-]+[HCO3-])
となり、簡単に計算で求めることが出来ます。
アニオンギャップの正常値
アニオンギャップの正常値は、現在では7±4mEq/Lとなっています。
以前は12±4mEq/Lでしたが、アニオンギャップの計算に影響を起こしやすいアルブミンの補正を行った方がより信頼できるとされ、アルブミン補正を加えた式が提唱されています。
単位のmEq/Lは[メック パー リットル]と読みます。
ちなみにですが、
陽イオンである[Na+]の正常値は、約140 mmol/L、
陰イオンである[Cl-]の正常値は、約100 mmol/L、
同じく陰イオンである[HCO3-]の正常値は、約24 mmol/L です。
※1mmol/L=1mEq/L
⚠️この値だけをみると代謝性アシドーシスとは考えにくいため(正常値なので当然)、この値をそのままアニオンギャップの式に当てはめても、それらしい答えにはなりませんので注意してください。
アニオンギャップに変化がみられる病態と対処法
代謝性アシドーシス+高アニオンギャップ
前半部分で軽く触れましたが、アニオンギャップの値が上昇している場合は固定酸や不揮発性酸(乳酸とか)の蓄積が原因で代謝性アシドーシスとなっていることが考えられます。
こう言った状態を、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスと言います。
病態としては、
・乳酸アシドーシス
・糖尿病性ケトアシドーシス
・アルコール性ケトアシドーシス
・腎不全(遠位尿細管での水素イオン分泌障害)
・飢餓
などがあります。
この他にも、
・メタノール(ギ酸生成)
・エチレングリコール(シュウ酸生成)
・サリチル酸(サリチル酸生成)などの毒物接種
も、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスの原因となります。
代謝性アシドーシス+正常アニオンギャップ
正常アニオンギャップ性代謝性アシドーシスでは、[HCO3-]が体外に異常に失われて、代わりに[Cl-]がそれを代償するカタチで増加していることが原因と考えられています。
なので、高塩素性代謝性アシドーシスとも言います。
病態としては、
・下痢
・早期腎不全(近位尿細管での重炭酸再吸収障害)
・アセタゾラミド
・尿管小腸吻合術
などがあります。
アニオンギャップが低下している場合
稀にアニオンギャップが低下する場合もあります。
これは代謝性アシドーシスには関連しませんが、多くの場合で低アルブミン血症が原因で引き起こされます。
実はアルブミンは陰イオンの主要部分でもあります。
この事から、前述した通りアルブミンの値がアニオンギャップに強く影響してくるので、アルブミンが正常範囲を逸脱している場合は、アニオンギャップ-アルブミン補正式を用いた方が望ましいです。
また、
・高カルシウム血症
・高マグネシウム血症
・リチウム中毒
・高ガンマグロブリン血症
・低栄養
も、アニオンギャップを低下させる要因となります。
対処法
アニオンギャップがどの状態であっても、対処法は基本的に原因となっている疾患の治療を行うこととなります。
原因が毒物摂取による中毒である場合は、血液透析を行う場合もあります。
稀に重度のアシデミアに対して炭酸水素ナトリウム(NaHCO3-)の慎重投与を行うケースもある様です。
大切なのは、患者さん状態と病状の変化で、血ガスのデータを追うあまりに数値合わせに固執してしまわない様に注意しなければなりませんね。
アルブミン補正によるアニオンギャップ補正値
繰り返しになりますが、アルブミンはアニオンギャップに強く影響するので、採血結果でアルブミン濃度がわかっている場合はアルブミン補正を行い、再計算します。
【アニオンギャップ-アルブミン補正式】
AGc=AG+2.5 ×(4.5ーアルブミン濃度)
※AG=アニオンギャップ
※AGc(corrected AG)=補正アニオンギャップ
これを用いて具体例を挙げて計算してみます。
【例えばアニオンギャップが10mEq/Lで、アルブミン値が2.5g/dLだった場合】
AGc=10+2.5 ×(4.5-2.5)
=10+5
=15mEq/L
となり、補正を行うか行わないかで5mEq/Lも値が変わってきます。
以前のアニオンギャップはアルブミン値が考慮されておらず、アニオンギャップを測定する意義について疑問視する声がありました。
しかしアルブミン補正アニオンギャップを用いることで、代謝性アシドーシスをより正確に評価できたと報告されています。
参考にした資料:
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