呼吸器系の勉強をしていると肺コンプライアンスと言う言葉を目にすることが多々あるかと思います。
これは肺の柔らかさを表す指標で、さまざまな肺疾患を考える上で重要な項目となります。
さらに肺コンプライアンスには、静肺コンプライアンスと動肺コンプライアンスという概念もあります。
今回は肺コンプライアンスの基礎と考え方、静肺コンプライアンスと動肺コンプライアンスの違いについても考えてみたいと思います。
目次
肺コンプライアンスとは
概要
肺コンプライアンスとは、いわゆる肺の柔らかさ・膨らみやすさを表したものです。
そもそもComplianceとは、「追従」や「応諾」といった意味があり、肺に焦点を当てて考えると、
「肺に空気を入れた時にどれだけ肺胞が追従して膨らむか?」と考えることが出来ます。
集中治療室では主に人工呼吸管理をされている患者さんの肺の状態を把握するために観察します。
肺コンプライアンスは基本的に数値で表されますが、一般的に臨床においては
・肺コンプライアンスの値が大きいことは、肺が柔らかく膨らみやすい事を意味し、
・肺コンプライアンスの値が小さいことは、肺が硬くて膨らみにくい事を意味します。
肺コンプライアンスは少し医学的な言い回しをすると、圧力の変化に対する容量変化の度合いとも言うことが出来ます。
これはどういうことかと言うと、例えばここに健康な肺の人と、病的な肺の人が居るとします。
健康な肺の人は、肺胞内の圧力がある一定のレベルに達するまで空気を吸い込もうとすると、肺が柔らかいのでたくさんの空気(容量)を吸い込むことが出来ます。
一方で病的な肺の人の場合、肺胞内の圧力が先ほどと同じレベルに達するまで空気を吸い込もうとすると、肺が硬いのであっという間に肺胞内の圧力が高まり、少しの空気しか吸い込むことが出来ません。
計算式
この様な肺コンプライアンスを計算式で表すと、
C = ΔV ÷ ΔP
C:肺コンプライアンス
ΔV:量の変化
ΔP:圧の変化
※Δはデルタと読みます。
と、求めることが出来ます。
この計算式からも、肺コンプライアンスとは、「肺に空気を入れて、1cmH2Oの圧に達した時に果たして何mLの空気が入ることが出来たか?」を表すものと言うのが分かります。
よって、肺コンプライアンスの単位も[mL/cmH2O]となります。
正常値
肺コンプライアンスの正常値は、教科書や文献によって若干異なりますが、およそ40〜50mL/cmH2O程度です。
ただし、この値は後述する「静肺コンプライアンス」の正常値になります。
※肺コンプライアンスは正確には静肺コンプライアンスと動肺コンプライアンスに分けて考えることが出来ます。
一般的な意味での「肺コンプライアンス」は、静肺コンプライアンスを指すことがほとんどですので、正常値は同じ値になります。
肺コンプライアンスの変化からみる病態と対処方
肺コンプライアンスの値が小さい時
肺コンプライアンスの値が小さいと言うことは、肺が硬く膨らみにくいことを表します。
具体的な病態としては、
・肺水腫
・無気肺
・ARDS
・うっ血性心不全
・間質性肺炎 などが考えられます。
肺コンプライアンスの値が大きい時
肺コンプライアンスの値が大きいと言うことは、肺が柔らかく膨らみやすいことを表します。
しかし値が正常値を超えて異常高値の場合は、肺胞上皮細胞が過進展を起こし、イメージとしてはグニャグニャになってることが考えられます。
具体的な病態としては、
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・肺気腫
・加齢によるもの などがあります。
それぞれの対処方
肺コンプライアンスを直接改善させる治療はないので、どの疾患においても基本的には原疾患の治療を行うこととなります。
ただし肺コンプライアンスの値が小さい場合は肺が硬くて膨らみにくいので、換気量が得られにくく難渋する場合もありますが、人工呼吸器の適切な圧力設定により肺保護を考慮した治療を行うことが大切です。
静肺コンプライアンスとは
静肺コンプライアンスとは、呼吸を意図的に止めて気流のない状態で測定される値です。
表記は【Cst:Compliance static】です。
正常値は前述した通り、40〜50mL/cmH2O程度です。
吸気気道流量を積分した1回換気量(VT)と気道内圧変化(プラトー圧ーPEEP)から、
Cst = VT ÷(プラトー圧ーPEEP)
の計算式より計算できます。
動肺コンプライアンスとは
これに対し動肺コンプライアンスとは、連続的な換気中の圧・量曲線から求める値です。
文字通り、連続的に動いている(呼吸している)肺に対するコンプライアンスです。
表記は【Cdyn:Compliance dynamic】です。
動肺コンプライアンスの正常値は静肺コンプライアンスよりも若干小さい程度です。
これは値を計算する上で、圧に肺と胸郭弾性成分、気道抵抗など様々な圧成分が含まれるためです。
計算式は、
Cdyn=VT ÷(最高気道内圧ーPEEP)
で求められます。
動肺コンプライアンスは呼吸回数を増やす程(f=10回,20回,30回,40回,50回,60回)に減少していきます。
これをCdynの周波数特性と言います。
動肺コンプライアンスは、もっと正確に厳密に言うと、呼気開始点(FRC:機能的残気量レベル)と、吸気終了点(約0.5L吸気した時点)の間の肺気量の差と圧の差との比から求めます。
そして換気量は400〜500mLと一定になる様にし、呼吸回数を変化させてその影響を観察します。
静肺と動肺コンプライアンスの違い
静肺コンプライアンスと動肺コンプライアンスを見比べて、何が分かるのかと言うと、
①末梢気道の閉塞性換気障害
②換気の不均等分布
の有無を調べる事ができます。
呼吸回数が増えると、動肺コンプライアンスの値は静肺コンプライアンスよりも小さくなると説明しましたね。
呼吸回数が60回の時の動肺コンプライアンスの値が静肺コンプライアンスの値の80%以下だった場合は、周波数依存性があると判定し、上記①、②の疾患が疑われます。
呼吸数が増えると動肺コンプライアンスが静肺コンプライアンスより低くなるのはなぜか?
それは、肺は完全に均一なものではなく、部位によって気道の空気の通りやすさと肺胞の膨らみやすさが異なるからです。
肺疾患ではこの不均一性が増すため、静肺・動肺コンプライアンスの差が生じると考えられています。
もし肺疾患や人工呼吸器を勉強する機会があったら、この2つのコンプライアンスの差を気にしてみると、呼吸生理についてもっと詳しくなれるかもしれません😊
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