集中治療室や循環器病棟で勤務していると、テンポラリーペースメーカーが導入された患者さんの担当になることがあると思います。
施設によってはテンポラリーペースメーカーの使用頻度はとても少なく、経験数もあまりない時にいきなり担当になってしまい、管理に困ったことはありませんか?
今回はメドトロニック社製の【5388体外式DDDペースメーカ】を例に、管理に必要な設定項目とその見方、トラブルの原因と対処法まで解説していこうと思います。
目次
テンポラリーペースメーカーとは
(写真はメドトロニック社製テンポラリーペースメーカー5388体外式DDDペースメーカ)
テンポラリーは【Temporary】、日本語では【一時的な】と言う意味があります。
術後やカテ後などの一過性の徐脈などに対してバックアップ目的で導入されることの多い、文字通り一時的に使用するペースメーカーです。
テンポラリーペースメーカーを植え込まれた患者さんの行く末は2つに分かれます。
1つは、術直後にたまに徐脈になることがあるので念のためにテンポラリーペースメーカーを挿れていたけど、ICU管理中には一度も徐脈にならなかったと言う場合です。
意外によくあります。
今後も徐脈になる可能性は極めて低いと判断されたらテンポラリーリードを抜去し、離脱します。
もう1つは、ICU管理中にてペーシングが行われ続け、テンポラリーペースメーカーの離脱は困難であると判断された場合です。
この場合は、時期をみて植え込み式のペースメーカーの手術をすることとなります。
テンポラリーペースメーカーの適応は、基本的には恒久的(植え込み式)ペースメーカーの適応に準じます。
分かりやすいもので言えば、
・SSS(同機能不全症候群)
・AVB(房室ブロック)
・徐脈性心房細動
などが挙げられます。
テンポラリーペースメーカーの設定項目
それではここから、メドトロニック社製のテンポラリーペースメーカー【5388体外式DDDペースメーカ】を例に、具体的な設定の見方とか、確認事項を紹介していきます。
テンポラリーペースメーカーで設定できるモードはたくさんありますが、ICUや循環器病棟にて管理されるテンポラリーのモードはVVIモードであることがほとんどなので、以下の解説はVVIモードという前提で行っていきます。
また担当の引き継ぎをされた時点で本体の電源はONになっていると思うので、電源の入れ方はあえて説明するまでもないですが、本体下部のONボタンを1度押すと電源が入ります。
ちなみに電源を切る場合はOFFボタンを2回押します。
ペーシングレート(心拍数)
設定を本体の上から順番に見ていくと、1番最初に表示されているのがペーシングレートです。
RATE(レート)と表示されており、単位は[min-1]です。
[min-1]とは[bpm]や[回/分]と同じことです。
写真では60 min-1の設定となっていますので、口頭で申し送りをする場合は、「ペーシングレート60回に設定されています。」と言います。
アウトプット(出力)
写真ではV OUTPUTと表示されています。
VVIモードなので、V(心室)に対する出力の設定項目です。
単位は[mA]です。
数値はペーシング1発1発に対する電気の出力を表しており、値が小さいほど心臓をペーシングする刺激が小さいことを意味しています。
逆に言えば、そんな小さい刺激でも心臓を捕捉することが出来るということはリードの位置が良好とも言えます。
ペーシングのノリが悪いと出力を上げていきますが、それだけ食う電気量も多くなるので電池の消耗が早まります。
例として、当院では留置されたリード位置が普通〜良好で、出力1mA以下という小さな刺激出力でも心室を捕捉できた場合、余裕を持たせて5mA程度で管理するように設定しています。
ちなみにVVIモードで動作中、A OUTPUTは、0mAと表示されています。
Vセンシティビティー(感度)
いわゆるセンシング感度のことです。
正しくは、V Sensitivityと表示されています。
ここは、一定時間が経過するとスリープ状態となり画面から消えてしまうところに表示されます。
写真の【MENU】ボタンを1度押すと表示が現れます。
ちなみに左上には現在のモードも表示されますね。
Vセンシティビティーは写真では2.0mVと設定されています。
数値を上げていくとセンシング感度は鈍くなり、アンダーセンシングの発生が懸念されます。
数値を下げていくと小さな波高値の出現も見逃しにくアンダーセンシングの発生は抑えられますが、逆にオーバーセンシングの発生率が高まります。
ここも例として、当院では特に問題がない場合は2mV程度で管理するように設定しています。
印象としてはオーバーセンシングよりもアンダーセンシングの方が発生しやすい傾向にあるので、設定値を1.0mVくらいに低くする事はあっても高くする事はあまりありません。
センシング感度やアンダーセンシング・オーバーセンシングが分からない方は、コチラの記事を参考にしてみて下さい。
その他の設定項目
VVIモード時の設定項目は上記の3つだけです。
ですが場合によってはVVI以外のモードで使用する事もありますので、簡単に紹介しておきます。
まず現在のVVIモードの状態で、AのOUTPUTを0mAから少しでも上げると、DDDモードに切り替わります。
リード線が心房には接続されていないと心房に対してペーシング刺激を送る事はあり得ませんが、本体はDDDモードとして動作をし始めます。
(逆にVのOUTPUTを0mAに設定し、AのOUTPUTを上げた設定にするとAAIモードになります。)
DDDモードの状態で【MENU】を表示させ、【SELECT】ボタンでを押していくと、
AのSensitivity、
VのSensitivity、
A-V Interval(いわゆるAVディレイ)
が、それぞれ設定変更可能となります。
さらにその下に表示されているA TrackingをONからOFFに切り替えると、DDDモードからDDIモードへ切り替わります。
このほかにも【MENU】ボタンを続けて押していくと、MENUページ2、MENUページ3と続いていきますが、これらのページにある各設定項目は一般的な管理ではさらに使用しないので今回の解説では割愛します。
テンポラリーペースメーカーの管理
リード線の挿入長
テンポラリーペースメーカー管理において、最も重要な項目と言っても過言ではないのがリード線の挿入長です。
なぜならテンポラリーのリード線は、植え込み式ペースメーカーのリード線と違って先端の留置部がズレやすいからです。
一過性であっても自己心拍の消失した患者さんに導入したテンポラリーペースメーカーのリード線が脱落してしまうと、最悪の場合、心停止となってしまいます。
確認の方法はリード線に記載されている目印の線を参考にします。
テンポラリーリード線には一番先端から10cmごとに目印が付いているので、挿入部位から外に出ている部分の距離を測ることで簡単に確認することができます。
この距離が前に確認した時と比べて長くなっている場合は、リード線が全体的に引きてしまったことが考えられます。
レントゲンでリード先端位置の確認も確認
リード線の挿入長が変わらなくても、心臓の中でリード線の先端がズレてしまうことは稀にあります。
結局体の内部のことは、外からでは正確には分かりません。
レントゲンを撮影する機会があれば、必ず心臓の中のリード線の先端位置を確認しましょう。
テンポラリーペースメーカーを導入した直後は必ず透視撮影がされているハズなので、その時の写真と見比べて位置が異なっている場合はすぐにドクターコールです。
ペーシングフェーラーの原因と対処法
ペーシングフェーラーとはペーシング不全の事であり、要するに心臓がペーシング刺激に対してうまく反応できていない状態を言います。
原因はリード線の先端部位のズレである事がほとんどです。
実際には、ペーシングレートが60回/分の設定なのにモニターには30回/分と表示され、「あれ?おかしいな?」と気づかれる場合が多いです。
このモニターの場合ですと心臓はギリギリ30回は収縮している様ですが、患者さんによってはペーシングフェーラーにより心停止となってしまう場合もあるので注意して下さい。
ペーシングフェーラーを認めた場合にまず出来ることは、アウトプット(出力)を上げることです。
写真のメドトロニックのテンポラリーペースメーカーでは、MAX25mAまで上げることが出来ます。
通常5mAとかで設定している状態から考えるとなんと5倍ですね。
アウトプット(出力)を大幅にあげることで、リード線の先端部位がズレていたとしても、なんとか心筋を捕捉してくれる可能性に賭ける応急的な方法です。
これでなんとか心拍数をキープしている間に速やかにカテ室など透視装置のある部屋に移動し、リード線留置のやり直しを計ります。
センシングフェーラーの原因と対処法
センシングフェーラーとはセンシング不全のことであり、アンダーセンシングとオーバーセンシングの2つがあります。
テンポラリーペースメーカーのセンシングフェーラーとして特に危険なのはオーバーセンシングです。
これは要するにノイズなど心臓の収縮以外の信号をセンシングする事でペースメーカーは「心臓は動いている」と勘違いしてしまい、本当は必要なペーシングを抑制してしまう状態のことを言います。
オーバーセンシングは、ペースメーカー本体の上部にある発光ダイオードとモニター心電図を見比べる事で分かります。
発光ダイオードの光は2色あり、ペーシングが出力された場合は緑色に、自己心拍の収縮をセンシングした場合は赤色に光ります。
これが赤色に光っているのにも関わらず、モニターの心拍数が設定値よりも低い場合はオーバーセンシングを起こしていると考えられます。
これを認めた場合にまず出来ることは、センシティビティー(感度)を高く(鈍く)設定することです。
これで解決できない場合は次項で説明するEMERGENCYボタンを押して固定レートに切り替えます。
その他のボタンについて
EMERGENCY(エマージェンシー)ボタン
これはその名の通り、緊急時に押すボタンです。
このボタンを押すと、DOOモードの固定レート型、AアウトプットはMAX出力の20mA、VアウトプットはMAX出力の25mAとなります。
つまり、何がなんでも、とにかく心拍を打たせようとする設定です。
(まさにEMERGENCY(緊急)ボタン…。)
この設定は先に紹介したペーシングフェーラー、センシングフェーラー(オーバーセンシング)の両方に対して有効です。
上記トラブルの対処法がよく分からない、緊急時に冷静に対処する自信がない、という場合には、とにかくこのボタンを押せば心停止してしまうリスクは減らすことが出来ます。
このボタンの特徴として、鍵マークの画面ロックがかかった状態でもこのボタンは押すことが出来ます。
しかし逆に意図せず指が当たってしまい、いつの間にかEMERGENCYモードに切り替わっていたというインシデントも起こっています。
詳しくはコチラの記事をお読み下さい。
当院で実際に起きたインシデントです。
PAUSE(ポーズ)ボタン
EMERGENCYボタンの反対側にあるオレンジ色のボタンはポーズ(一時停止)ボタンです。
このボタンを押している間はペーシング、センシングが一切効かなくなります。
実臨床において、このボタンを押すことはほとんど無いので気にしなくていいでしょう。
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