集中治療室において、溢水や急性腎障害(AKI:Acute Kidney injury)に対しての腎代替療法(RRT:Renal Replacement Therapy)は確かな有効性を持って治療の1つです。
RRTの方法には幾つか種類がありますが、中でも循環動態の不安定な患者の全身管理が必要な集中治療室では、循環に対する影響が比較的緩やかな持続的腎代替療法(CRRT:Continuous RRT)が選択される事が多々あります。
そしてそのCRRTにも幾つか種類が存在しますが、それぞれの特徴について解説していきます。
目次
RRTとCRRTの違い
まず、冒頭で紹介したRRTとCRRTの違いから確認していきます。
RRTにはいわゆる血液透析(HD)や血液透析ろ過(HDF)などが含まれます。
これらは例えば4時間という治療時間を設定して行う血液浄化で、一般的には透析室で行わる治療です。
対してCRRTはRRTを治療時間で制限せず24時間連続で行う事のできる血液浄化で、主に集中治療室で行われる場合がほとんどです。
言葉だけで考えると、CRRTはRRTの頭にContinuous(持続する・絶え間ない)のCを付けただけのものになりますね。
実際にはダイアライザーや血液回路に血栓ができてしまい24時間行えない場合もありますが。
RRTとCRRTの違いとして重要なのは、浄化効率の違いです。
RRTの場合、透析液流量は通常500mL/min程度です。
対してCRRTでの透析液流量は例えば500mL/hr程度で行われます。違いが分かりますでしょうか?
RRTの時の単位はmL/min、CRRTの時の単位はmL/hrです。
RRTでは1分間に500mLの透析液がダイアライザーに流れますが、CRRTでは1時間に500mLです。
単純に考えても60倍の差があります。
透析という治療は透析液の流量が多いほど透析効率が良いとされています。
しかし効率が良すぎると循環動態や全身症状にも影響が出てくる場合があります。
特に集中治療室で全身管理をされている患者さんにとっては、この循環動態の変化が大きな負担となってしまいます。
CRRTでは透析液流量を1時間に何百mLというあえて少ない流量で行うことで、循環動態になるべく影響しないようにしているのです。
しかし浄化効率を落とす為に流量を少なくすると、それはそれで老廃物の除去が不十分なまま終わってしまうので、24時間という長時間で行える様に工夫しています。
ちょっとまとめ
【RRT】
・HD、 HDFなどがある。
・施行時間は4時間程度。
・透析液や置換液流量の単位はmL/min。
・循環動態や全身症状への影響がある。
【CRRT】
・CHD、CHDFなどがある。
・施行時間は24時間以上。
・透析液や置換液流量の単位はmL/hr。
・循環動態への影響は比較的緩やか。
CHDF(持続的血液透析ろ過)
CHDFは集中治療室において最も選択される事の多いCRRTです。
施設によっては『CRRT=CHDF』と思っているところもあるかも知れません。
それだけ選択される機会が多いんですね。
CHDFではその名の通り、血液透析(HD)と血液ろ過(HF)を低流量で長時間に渡って施行する方法です。
以下に具体的な設定を例に解説します。
CHDFの設定例
【設定】
血液流量:100mL/min、透析液流量:600mL/hr、ろ過流量:800mL/hr、補液流量:200mL/hr
まず言えることは、この設定では除水はされていません。
これは透析液流量・ろ過流量・補液流量を見ればイッパツで分かります。
CHDFにおいて除水量は、
除水量=透析液流量-ろ過流量+補液流量の式で表されます。
設定例の値を当てはめてみると、
除水量=600ー800+200=0 となります。
この式は頭で理解するよりもイラストでイメージを付けた方が手取り早いので、次のイラストを見て下さい。
※イラストは後希釈方式
イラストのCHDF回路において、ダイアライザーには透析液が設定通り600mL/hrで流れ込んできています。
そして、ろ過流量は800mL/hrです。
つまりこの時点では600ー800=-200で、1時間あたり200mLの除水がされています。
CHDFの回路を先に進めていくと、Vチャンバーに200mL/hrの補液がされています。
200mL/hr除水として引かれた後に200mL/hrの補液が足されるので、差し引き0となります。
こう見るとイメージし易くありませんか?
設定が変わったとしても除水量の計算を行う時はこの回路図を思い浮かべて考えると分かり易いと思います。
透析液・ろ過・補液流量の矛盾した設定ミスなどにも気づく事ができるかも知れません。
CHDFの目的
そもそもCHDFは、持続的緩徐式に行うCHDとCHFを組み合わせた方法です。
CHDはアンモニアや尿毒症物質といった小分子量物質の除去に優れ、CHFはβ2ミクログロブリンやエンドトキシンなどの中〜大分子量物質の除去に優れています。
CHDとCHFの両方の特徴を備え、広い範囲の血漿成分を同時に除去できるのがCHDFの特徴であり、目的です。
小分子量物質をより除去したい場合はCHDとしての効率を上げるために透析液流量を上げ、中〜大分子量物質をより除去したい場合はCHFとしての効率を上げるために補液流量を上げます。
どちらの場合も透析液流量・補液流量を上げただけでは除水量が減少しプラスバランスに傾いてしまうので、除水量をキープしたい場合は濾過流量も併せて増やすことを忘れずに意識しておいて下さい。
ちなみに血液流量を上げることも、浄化効率を上げる事に大きく影響します。
小分子量物質、中分子量物質・大分子量物質が具体的になんなのかわからない人は、一度リンク先の記事で確認してみてください。
大分子量以上の物質や、それぞれに適した除去療法と合わせて解説しています。
CHD(持続的血液透析)
CHDの設定例
【設定】
血液流量:100mL/min、透析液流量:1000mL/hr、ろ過流量:1100mL/hr
※補液流量:CHDの設定項目に補液流量の設定はありません。
この設定では1時間あたり100mLの除水がされる様になっています。
これも先ほどと同じ計算で分かります。
CHDにおいても除水量は、
除水量=透析液流量-ろ過流量+補液流量の式で表されます。
CHDでは補液流量の設定はないので0になります。
設定例の値を当てはめてみると、
除水量=1000ー1100+0=-100 となります。
この式も頭で理解するよりも同じようにイラストでイメージを付けてみましょう。
次のイラストを見て下さい。
イラストのCHD回路において、ダイアライザーには透析液が設定通り1000mL/hrで流れ込んできています。
そして、ろ過流量は1100mL/hrです。
つまりこの時点では1000ー1100=-100で、1時間あたり100mLの除水がされています。
※補足:先ほどからずっと言っている「除水」とは、ダイアライザー内に送られてきた患者さんの血液から引っ張ってくる水分量の事です。
ダイアライザー内部で透析液と血液が半透膜を介して触れ合い透析が行われ、設定された除水量分の水分が引かれた量の血液が患者さんへ返血されていきます。
CHDの目的
CHDは血液透析(HD)の透析効率を低め、長時間にわたり施行し続ける方法であり、その目的は基本的にはHDのそれに準じます。
もともと日常的に4時間透析を行なっていた患者さんが何かの理由で集中治療室に入室されてきた時に、循環動態に悪影響を及ぼさない様に透析を行いたい場合などに選択される事があります。
CHDFとCHDの違い
CHDFとCHFは何が違うのか? と言う質問をたまに受けるのですが、答えは明快、「補液をするかどうか。(あるいは、したいかどうか。)」です。
補液をするかどうかで何が変わってくるのかというと、中〜大分子量物質の除去効率が変わってきますね。
前述した通り、CHDでは主に小分子量物質の除去を目的に施行される場合が多いのに対し、CHDFでは補液を付け加えることで小〜大分子量物質を幅広く除去することができます。
治療範囲が広いので、特別な理由がなければCHDFを選択される場合が多いと思います。
CHDF看護のポイントはコチラ。
では次に、補液と濾過だけを掛けるCHFと言う方法もあるので事項にて解説します。
CHF(持続的血液ろ過)
CHFの設定例
【設定】
血液流量:100mL/min、ろ過流量:1100mL/hr、補液流量:1000mL/hr
※CHFの設定項目に透析液流量の設定はありません。
この設定においても1時間あたり100mLの除水がされる様になっています。
これも先ほどと同じ計算で分かります。
CHFにおいても除水量の式は変わりません。
除水量=透析液流量-ろ過流量+補液流量の式です。
CHFでは透析液流量の設定はないので0になります。
設定例の値を当てはめてみると、
除水量=0ー1100+1000=-100となります。
この式も頭で理解するよりも同じようにイラストでイメージを付けてみましょう。
次のイラストを見て下さい。
イラストのCHF回路において、ダイアライザーに透析液は流れ込んできません。
ダイアライザー内部では血液から1100mL/hrの流量で濾過が行われるのみです。
つまりこの時点では濾過流量分の-1100mL/hrの除水がされています。
ダイアライザー内に送られてくる血液はこの設定では100mL/minなのに1100mL/hrなんて量の水分を除水するなんておかしいと思いますか?
単位をよく見てください。血液流量の単位は【mL/min】、つまり1分間あたりの量です。
ろ過流量の単位は【mL/hr】、つまり1時間あたりの量でありこれに合わせるなら、ダイアライザーに送られてくる血液の流量は×60分間として、6000mL/hrとなります。
余裕で除水できる量ですね。(ちょっとした復習でした。)
回路を先へ進めると次に待ち構えているのはVチャンバーです。
CHFでは、後希釈法においてはこのVチャンバーに補液がされます。
この設定では確かにダイアライザー内で1100mL/hrの除水がされますが、Vチャンバーにて1000mL/hr補充されるので、差し引き100mL/hrの除水がされる計算になります。
CHFの目的
CHFは血液ろ過(HF)の浄化効率を低め長時間にわたり施行し続ける方法であり、その目的は基本的にはHFのそれに準じます。
4時間かけて血液ろ過を施行しているケースは個人的にはあまり見かけませんが、血液透析と同じく何かの理由で集中治療室に入室されてきた時に、循環動態に悪影響を及ぼさない様に血液ろ過を行いたい場合などに選択される事があります。
最後に
集中治療室におけるCHDFの理解は慣れていないとかなり難しく、混乱すると思います。
たまに、「CHDやCHF を理解していないとCHDFは絶対に理解できない」と言う人もいると思います。
実際その通りかも知れません。
しかしここは、あえて難しいCHDFから取り組んでもらいたいと思っています。
なぜなら前述した通りCHDやCHFよりもCHDFの方が選択されることが多く、場数を踏めるからです。
CHDFの症例をたくさん見て、経験して、イメージをしっかり持って理解しておけば残りのCHDやCHFの理解なんて楽勝です。
CHDFの管理をする上でよく発生するアラームや、看護についてよく相談される内容についてはコチラの記事にまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください!
CHDFの事については、この教科書もとても分かりやすく参考になります!
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