溶血は血液透析や人工心肺などの体外循環を行った場合や、非等張液との接触で起こる赤血球の破壊です。
溶血が起こると急性腎不全や発熱、呼吸困難といった症状が起き、患者さんの全身状態が悪くなるので、
早急に対処しなければなりません。
溶血が起こる原因と早期発見の判断材料を考えていきたいと思います。
目次
溶血とは
溶血とは
「赤血球を濃い食塩水(高張液)に入れると浸透圧(分子やイオンなどの粒子の濃度)の違いにより、赤血球から水分が奪われて金平糖状に圧縮されて破壊される現象。逆に薄い食塩水(低張液)に入れても赤血球は膨潤して溶血が起こる。」
と定義されています。
※MEテキストより
溶血が起こる原因
①高張液と触れることで赤血球から水分が奪われて、圧縮され破壊される
②低張液と触れることで赤血球が膨潤して破壊される
③ローラーポンプのしごきによる機械的破壊
④空気や異物に触れることでの破壊(気泡型人工肺では明らかに溶血が多い)
⑤陰圧による破壊(-20mmHgを超えない低陰圧では極めて軽微である)
⑥遠心ポンプによるShare stressによる破壊
⑦体外循環中の回路内で発生する様々な乱流やずり応力による破壊
⑧急激な加温も溶血の原因の一つ
⑨赤血球に抗体が結合することで、また補体が活性化し、タンパク質複合体が形成されて細胞膜に孔が開き、溶血を起こす
溶血の起こる工程
赤血球に溶血の原因となる事象が加わる
↓
赤血球の細胞膜が損傷を受ける
↓
原形質(ヘモグロビン)が細胞外に漏出する
溶血を早期発見する判断材料
①LDH
赤血球中にはLDHが多量に含まれているので、溶血が起こると漏出した血液検査でのLDHは高値になります。
ただしLDHはほとんどの臓器や組織に分布しているのでLDH/AST比を計算し、
高値(10〜25)の場合は悪性腫瘍や溶血性疾患が疑われます。
②CK
溶血していると赤血球中のadenylate kinaseの影響でCKが見かけ上高値になる場合があります。
③AST
ASTは主に肝細胞障害で血中に逸脱しますが、骨格筋、心筋などの破壊でも上昇します。
赤血球中にもASTは含まれており、溶血を起こすと血中に逸脱し、AST値は上昇します。
④ALT
ALTは肝細胞の破壊に伴い血中に逸脱する酵素です。
ASTよりも肝に特異性が高いとされています。
ALTも赤血球に含まれていますが、その分布量はASTに比べて少なく、溶血の影響も比較的軽度です。
⑤K(カリウム)
生体内ではカリウムの98%は細胞内に含まれます。
血液中では98%が赤血球中に存在し、溶血が起これば血清K値は高値になると考えられます。
⑥Met-Hb
メトヘモグロビンは、ヘム・グループ内の第1鉄イオン(Fe++)が酸化されて第2鉄状態(Fe+++)になると形成されます。
溶血を起こすとヘモグロビンが遊離されますが、遊離したヘモグロビンは脾臓でヘムとグロビンに分解され、
ヘムはさらに3価のFeイオンとビリベルジンに分解されます。
3価のFeイオンはメトヘモグロビンを形成するので、高度な溶血が起こった場合、
血ガスのMetHb値が上昇すると考えられます。
ちなみに通常遊離したFeは血管内のトランスフェリンによって肝臓に運ばれ、フエリチンとして蓄えられます。
⑦T-Bil
またビリベルジンは間接ビリルビンとなり、アルブミンと結合し肝臓へ運ばれた後、グルクロン酸抱合を受けます。
溶血が起きている場合、多量の間接ビリルビンが肝臓内に流入し、
グルクロン酸抱合が間に合わず、血中に間接ビリルビンが逸脱します。
肝機能が悪いと抱合した直接ビリルビンを胆管に運搬できず血中に直接ビリルビンが逸脱します。
結果として総合ビリルビンは上昇するので、血ガスのT-Bil値は上昇すると考えられます。
⑧COHb
溶血の他の指標として、ヘムのビリルビンへの代謝過程で発生するCOを反映するcarboxyhemoglobin(COHb)、
end-tidal carbon mon oxide(ETCO)が溶血の早期スクリーニングとして応用研究されているようです。
特にCOHbが1.4%を超える場合、ETCOが2.0ppmを超える場合は注意が必要です。
※新生児溶血性疾患の病態と治療より
ただし、上記は新生児について書かれてありました。
新生児では呼吸器系システムの発達が未熟なこととあいまって、
ヘモグロビン代謝の増大のためにカルボキシヘモグロビンは10〜12%になることもあります。
また、ヘビースモーカーでも9〜10%にもなるようですね。
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