循環器において極めて高い補助率を持つ生命維持管理装置、ECMO(PCPS)とIABP。
稀ですがこの2つの装置を併用して治療を行うケースがあります。
ECMO(PCPS)とIABPを併用する事でどの様な効果が期待できるのか、またどういった点に注意するべきなのかをまとめました。
目次
ECMO(PCPS)とは
ECMOとは、遠心ポンプと人工肺を用いて循環と呼吸を補助する補助循環装置です。
日本ではPCPSとも呼ばれています。
先端が右心房の位置に来る様に挿入した脱血管から静脈血を脱血し、その血液を人工肺によって酸素を付加します。
その後その血液を動脈側へ送血する事で、心臓の機能が著しく低下しても一時的に循環を維持することが出来る仕組みになります。
IABPとは
IABPとは下行大動脈に細長いバルーンを留置し、心臓の収縮・拡張のタイミングに合わせてバルーンを動作させる事で、心臓の負担を少なくする事を目的とした補助循環装置です。
その効果は大きく分けて2つあります。
IABPの効果①ダイアストリックオーグメンテーション
心臓の拡張期(ダイアストリック)にバルーンが膨らむ(オーグメンテーション)事で得られる効果です。
バルーンが拡張することで平均大動脈圧が上昇し、冠動脈血流、脳血流が増加します。
IABPの効果②シストリックアンローディング
心臓の収縮期(シストリック)にバルーンがしぼむ(アンローディング)事で得られる効果です。
心臓の収縮期にバルーンがしぼみ、圧が開放される事で左心室に対する後負荷が軽減されます。
ECMO(PCPS)とIABPの併用
期待できる効果
ECMOとIABPを併用する事で期待できる効果は、
①末梢循環の改善
②交感神経の抑制
③腎血流の維持
④冠血流の増加
などが挙げられます。
これらは全てECMO送血による非拍動流送血の拍動流送血化に由来します。
ECMOによる送血はいわゆる定常流(非拍動流)で、生理的なものとは異なります。
(心臓の拍出はドクン、ドクン、と脈打つので拍動流である)
ここにIABPの収縮・拡張の動きを加える事で、生理的な血流と同じ様な拍動流を作り出すことができ、上記のような効果に期待できます。
言うまでもなく、ECMOとIABPのそれぞれ単体としての循環補助の効果も備えています。
注意点
ECMOとIABPを併用する場合には注意する点も多いです。
IABPの動きに合わせてイメージしてみて下さい。
【ECMO+IABP拡張時】
・バルーンが拡張する事で、上肢への送血が妨げられる。
【ECMO+IABP収縮時】
・ECMOの逆行性送血による左心室への後負荷増大は健在。
この他にも、
・出血、血栓、感染のリスクの増加
・治療システムの複雑化
などが当てはまります。
最後に
後負荷減少や拍動流送血どうこうといった利点も、明確なエビデンスが少なく効果に関して不明な点が多いのが現状のようです。
現段階で個人的には先に述べた併用による注意点の様に出血源や感染源を増やしてしまうこと・血管損傷といったリスクを抱えてまでエビデンスの乏しい利点に期待するよりも、ECMO単独で十分な送血流量を確保することに留意した方が良いのでは?と感じます。(もちろん症例によりますが。)
拍動流ECMO送血による末梢循環等の改善は確かに望ましいことですが、何よりも早めに離脱することが大事だと考えます。
[…] と言われています。IABPを導入しても尚、循環動態が安定しないのであればVA-ECMO(PCPS)へのコンバージョンを検討しましょう。CCU領域ではIABPとVA-ECMOを併用する様な症例も稀にあります。 […]