最近では集中治療室で補助循環装置ECMO(エクモ)が稼動する事が増えてきました。
ECMOには大きく分けて2種類の方法があり、1つはVA ECMO(ブイエーエクモ)、もう1つはVV ECMO(ブイブイエクモ)と呼ばれます。
集中治療室に勤務しているスタッフにとって、いま可動しているECMOがVA ECMOなのか、VV ECMOなのか、理解しておくことは重要です。
この2つの違いについてまとめてみました。
目次
VA ECMOとは
まずは言葉の意味から知ってみましょう。
VはVeinの「V」、つまり静脈を意味していて、AはArteryの「A」、つまり動脈を意味しています。
VA ECMOの「VA」とは、Vから脱血してAに送血するという事を表しています。
VA ECMOでは主に大腿静脈に脱血管が入っていて(脱血管の先端は右房のあたりにあります)、静脈血を脱血しています。
送血管は主に大腿動脈に入っていて、先端は脱血管よりも短いので腹部大動脈のあたりに位置しています。
血液は右房→脱血回路→遠心ポンプ→人工肺で酸素加→送血回路→動脈 の順に流れます。
仮に心機能が著しく低下していても、全身に酸素を運ぶことができるのです。
つまりVA ECMOは心肺の補助目的で導入されます。
上の図と説明でも分かる様にVA ECMOはPCPSと同じ原理である事が分かるかと思います。
そうです、VA ECMOとPCPSは同じ治療になります。言葉が違うだけです。
VA ECMOの適応
VA ECMO(PCPS)の適応は次のとおりです。
・心原性ショック、心停止
・難治性で繰り返す心室細動や心室頻拍患者
・急性冠症候群の冠動脈形成術までのサポートやブリッジ
・急性肺血栓塞栓症によるショック
・偶発的低体温による循環不全
・心肺停止蘇生例
など。
日本救急医学会の医学用語解説集より抜粋しています。
実際は心臓や肺に問題があり、かつ病態が薬剤抵抗性である症例で、心配機能を人工的にサポートすることで生命を維持できる症例が適応となります。
これらの事からもVA ECMOは、いわゆる循環ECMOと呼ばれたりもします。
VV ECMOの禁忌
逆に、VA ECMO(PCPS)の禁忌は次のとおりです。
・非可逆的脳障害
・大動脈解離
・止血困難な進行性出血
・悪性疾患の末期状態
・高度大動脈弁閉鎖不全
など。
これらに対して何故VA ECMOを導入してはダメなのか?
それは脳に重大な障害がある場合や悪性腫瘍の末期時にVA ECMOにて循環を維持し、仮に離脱できてもその後の予後が悪く社会復帰が非常に困難だからです。
また止血困難な出血が続いている場合、VA ECMOにて送血すればするほどに出血が助長されるばかりか、静脈側に損傷(穴)がある場合そこからエア(空気)を引き込んでしまい、ECMOが機能しなくなるからです。
VV ECMOとは
初めに説明したとおり、Vは静脈の事を意味していましたね。
ということはVV-ECMOは「V→V」つまり静脈から脱血して静脈に送血していることを意味します。
VV ECMOには心臓を補助する効果はありませんので、使っている機械は同じですがこれをPCPSと呼ぶのは間違いです。
VA ECMOに対してVV ECMOは呼吸補助目的で導入されます。
VV ECMOでは主に内頸静脈に脱血管が入っていて、先端は右房のあたり。
送血管は主に大腿静脈に入っていて、右房に向かって流れています。(VV ECMOでは足と首の送脱血が逆の場合もあります。)
この流れだと送血した血液がそのまま脱血されるんじゃないかと思うことでしょう。
その通りです。
せっかく酸素加し送血した血液は再び脱血されてまうのです。
これをリサーキュレーションといいます。
心機能が保たれていればECMOが送血した全ての血液がリサーキュレーションされる事はありません。
しかしカニューレの位置や心機能によっては50%以上リサーキュレーションされることもありますので注意しましょう。
VV ECMOの適応
VV ECMOの適応は次のとおり。
・人工呼吸器で対応できない可逆性のある重症呼吸不全
・pHが7.2以下の呼吸生アシドーシス
・肺移植までのブリッジ
など。
こちらはELSO(Extracorporeal Life Support Organization)のVV ECMOの適応基準を参考にしています。
VV ECMOの禁忌
VV ECMOの禁忌ですが、相対的禁忌としては、
・7日以上プラトー圧 > 30cmH2Oの場合
・7日以上FiO2 > 0.8の場合
・重度の不可逆性脳障害や治療不能な悪性腫瘍など
とされ、絶対的禁忌としては、
・抗凝固薬を使用できない状態
とされていますが、様々な意見により見直されてきています。
オススメの教科書
ECMOとPCPSの違いの詳しい説明はもちろん、ECMOの原理、管理法、生理についても詳しく書いてあります。
一見ムズかしそうなタイトルですが、写真やイラスがかなり多く載っていて非常に分かりやすいですよ!
ECMO症例を経験する機会がある方にとってのバイブルとなり得る一冊です。
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