PCPS(ECMO)の心補助率は70%程度まで可能と言われ、人工心肺装置の心補助率は100%まで可能です。
どちらも同じ様にポンプと人工肺によって心肺機能の代行を行うのに、なぜこの様に差が生じるのでしょうか。
このPCPSと人工心肺装置の違いについて解説します。
目次
PCPSとは
PCPSとは、Percutaneous Cardio Pulmonary Supportの頭文字を繋げたもので、日本語では経皮的心肺補助法と言います。
最近ではECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation:膜型人工肺による酸素化療法)という言葉で呼ばれる事も増えてきましたが、呼び方が違うだけでやっていることは同じです。
(厳密にはVA-ECMOやVV-ECMOなどでさらに細かく区別されています。)
PCPS(ECMO)は、多くの場合で大腿静脈に挿入された脱血管と遠心ポンプによって血液を体外へ取り出し、人工肺によって酸素/二酸化炭素のガス交換及び調節された血液を、大腿動脈に挿入された送血管から全身に向けて送血されます。
人工心肺装置とは
人工心肺装置は心臓血管外科の開心術で使用される生命維持管理装置です。
開心術での人工心肺装置の役割りは主に5つあります。
① 心肺機能の補助代行
② 体温管理
③ 無血視野の確保
④ 電解質の調節
⑤ 心筋保護液の注入
詳しくはコチラ記事に書いてありますので、参考にしてみてください。
人工心肺装置は、多くの場合で開胸し、上大静脈と下大静脈に直接脱血管を挿入して脱血を行います。
その脱血した血液を一度リザーバーと呼ばれる貯血槽に溜め、血液ポンプによって熱交換器や人工肺に向けて送り出します。
温度調節・ガス交換調節をした血液を、上行大動脈に直接挿入した送血管から全身に向けて送血します。
ちなみに人工心肺装置は英語表記では、CPB(Cardio Pulmonary Bypass)と表記されます。
PCPSと人工心肺装置の違い
閉鎖式回路か開放式回路かの違い
決定的な違いは、PCPSは閉鎖式回路であるのに対し、人工心肺装置は開放式回路である事です。
PCPSの閉鎖式回路とはどういう事かと言うと、血液回路が大気に解放されていないと言う事です。
PCPSは前述した通り、大腿静脈に挿入された脱血管から血液を脱血し、遠心ポンプによって人工肺を経由して大腿動脈に挿入された送血管から全身に向けて送血されます。
つまりPCPSでは血液は大気(空気)に触れることはありません。
対して人工心肺装置は、脱血した血液を一度リザーバー(貯血槽)に溜め、そこからポンプを使って二次的に送血を行います。
このリザーバーは大気開放されているので、これを組み込んだ人工心肺装置の回路は開放式回路と呼ばれます。
脱血量と送血量のコントロールの可否
閉鎖式回路と開放式回路の違いによって何が変わってくるのかと言うと、それは脱血量と送血量を別々にコンロール出来るかどうかの違いです。
閉鎖式回路のPCPSでは、脱血量と送血量は等しいですよね。
対して開放式回路の人工心肺装置では、脱血量と送血量を別々にコントロールする事ができます。
(繰り返しますが、人工心肺装置では脱血し一度リザーバーに貯めた血液をポンプによって二次的に送血するから。)
逆行性送血か順行性送血かの違い
PCPSの送血は、大腿動脈からの逆行性送血で行われます。
しかも前述の通り閉鎖式回路のPCPSでは脱血量=送血量ですので、これにより心補助率を上げようとポンプの回転数を増やせば増やすほど左室後負荷は増大します。
人工心肺装置の場合は上行大動脈に直接送血管を挿入して行います。
これにより送血量を上げても左心系への影響はPCPSの時と比べて軽度です。
さらに開心術中に大動脈遮断と言う手技で大動脈を鉗子でクランプし、大動脈と左心室の交通を完全に遮断した時は、大動脈圧上昇に伴う左心系への影響は完全に無くなります。
左房ベント(吸引)の有無
さらに人工心肺装置には吸引ポンプ(ベントポンプ)が付属しており、これが気管支静脈やテベシウス血管によって左心系に流れ込んできた血液を脱血し、左心系の過伸展を防止します。
さらにこのベントポンプによって脱血した血液はリザーバーへと送られるので、後に送血液として再利用されます。
このベント回路は通常PCPSでは行いません。
(Central ECMOにて左房ベントを追加した2本脱血—上行大動脈送血のシステムでは、100%に近い心補助も可能と考えられますが、それは言葉上PCPSではないですし、実際に行われることは極めて稀なのでここでの説明においては省くことにします。)
以上の理由でPCPSと人工心肺装置の心補助率が異なる事が考えられます。
まとめ
PCPSの心補助率
① PCPSは閉鎖式回路である。
② その為PCPSでは脱血量=送血量となる。
③ さらにPCPSは大腿動脈からの逆行性送血を行う。
④ 心補助率を上げようとポンプの回転数を上げると、脱血量は増えるが②により送血量も増える。
増えた送血量は③により左心系の後負荷増大となってしまう。
以上の理由により、PCPSでは心補助率100%には達しない。
人工心肺装置の心補助率
① 人工心肺装置はリザーバーを用いた開放式回路である。
② その為人工心肺装置では脱血した血液を一度リザーバーに溜め、血液ポンプによって二次的に送血することで、脱血量と送血量を別々にコントロールする事ができる。
③ さらに人工心肺装置は上行大動脈送血の順行性送血により、送血量を増やしても左心系への後負荷増大の影響は少ない。
※ 補足すると、大動脈遮断を行う事で左心系への影響は完全に無くなる。
④ ベントポンプによる吸引で左心系の過伸展を予防するばかりか、その血液をも送血液に再利用する事が出来る。
以上の理由により、人工心肺装置では100%の心補助が可能となる。
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