血ガスを測った時、PaO2の値は特に注目する項目の一つではないでしょうか。
PaO2とは動脈血酸素分圧のことであり、主に呼吸機能の評価において必要不可欠な項目ですね。
PaO2の正常値は100mmHgというのは知っているかと思いますが、なぜ100mmHgなのでしょう?
そもそも酸素分圧とは一体何なんでしょう?
私達が今、呼吸しているこの空気中の酸素からわかりやすく考えてみたいと思います。
目次
酸素分圧とは
結論から言いますと酸素分圧とは、大気圧(空気)中や血液中に含まれる酸素の量の事です。
酸素は気体であるため、1個、2個と数えにくいので分圧と言う言葉で表現されます。
「分圧」とは文字通り「圧」を「分けた」もので、ここで言う「圧」とは大気圧の事ですね。
私達が普段生活しているこの大気圧下には、様々な気体が存在しています。
それは窒素だったり、二酸化炭素だったり、もちろん酸素も含まれています。
この大気圧の中で酸素として分けられた部分、これを酸素分圧と呼びます。
動脈血中の酸素分圧(PaO2)は、この大気から呼吸運動として息を吸い、肺胞→ガス交換までの道のりを順番に考えることで正常値の意味が見えてきます。
大気中の酸素分圧
私達は大気圧と呼ばれる760mmHgの気圧の中で生活しています。
空気中の酸素の濃度は21%なので、
760mmHg×21% = 160mmHg
この計算から、私達の身の回りにある空気中には160mmHgの酸素分圧が存在していると考えます。
よく言い間違いをしている人を見かけるのですが、例えば富士山に登ると「酸素が薄い」と思ってしまいますよね。
しかしこれは山頂の酸素が薄い(酸素濃度が低い)訳ではなく、山などの高所は気圧が低い(<760mmHg)ので、それに伴って酸素分圧も低く計算され、「酸素が薄い」と感じてしまうのです。 酸素の濃度は山の頂上でも地上でも同じ21%です。
吸入気酸素分圧
吸入気とは文字通り吸い込んでいる空気、気道内にある空気の事です。
私達は呼吸運動として息を吸い込むと、その空気は体温の温度まで加温されます。
空気は37℃まで温まると、47mmHgの飽和水蒸気圧となります。
呼吸生理では上気道で加温加湿されることを前提とするので、大気圧の760mmHgからこの47mmHgを引いて計算します。
つまり、
(760mmHg - 47mmHg)×21% = 150mmHg
この様に計算され、これが吸入気酸素分圧を表します。
肺胞気酸素分圧
私達が吸い込んでいる空気の酸素分圧(吸入気酸素分圧)は150mmHgでした。
吸い込んだ空気は次に肺胞まで届けられます。
肺胞の中まで到達した空気の酸素分圧は肺胞気酸素分圧と言います。
肺胞の中には体から排泄すべき二酸化炭素が、正常値では40mmHgほど存在します。
届けられた150mmHgの酸素分圧は40mmHgの二酸化炭素分圧によって押し出されてしまいます。
つまり肺胞の中には、
150mmHg - 40mmHg = 110mmHg
の計算により、110mmHgの酸素分圧が残ることになります。
※ここでは計算をわかりやすくする為に呼吸商を省略しています。
動脈血酸素分圧の正常血
ここまでの計算で、肺胞の中にある空気の酸素分圧は110mmHgということが分かりましたね。
最後にこの110mmHgの肺胞気酸素分圧が肺胞から動脈血内に移動した時どうなるのか?
肺胞にある酸素は毛細血管を介して動脈血中に移動します。
普通に考えれば、肺胞の中にある酸素分圧がそのまま移動するだけなので動脈血酸素分圧も同じ110mmHgだと考えてしまいますよね。
しかし、肺胞→動脈血の間にはガス交換に関わらない部分が存在しています。
それはA-aDo2(エー エーディーオーツー)と呼ばれるシャント(短絡)です。
A-aDo2はどんな健康な人にも存在するので、110mmHgの酸素分圧が全て移動するわけではありません。
A−aDO2はおよそ10mmHgとされているので、動脈血酸素分圧の計算は
110mmHg - 10mmHg = 100mmHg
となり、これが正常値となります。
A-aDO2についてはコチラの記事を参考にしてみてください。
呼吸商を含んだ計算
先ほど、肺胞気酸素分圧の計算のところで省略していた呼吸商について軽く触れておきます。
酸素分圧のイメージを簡単にするために省略していたワケですが、呼吸商とは、1分間あたりに消費される酸素の量と、産生される(排出される)二酸化炭素の量の割合(比)のことです。
「R」という英語で表記されます。
より正確に肺胞気酸素分圧を計算する場合は、吸入気酸素分圧150mmHgから引き算する二酸化炭素分圧40mmHgを、さらに呼吸商Rで補正する必要があります。
ヒトは好気性代謝によって消費する酸素の量と排出する二酸化炭素の量が変化します。
例えばブドウ糖が燃焼する場合は、消費する酸素の量と排出される二酸化炭素の量は同じなので、この2つの比である呼吸商Rは1となります。
R=1で計算する場合は、引き算する二酸化炭素分圧40mmHgはそのままでOKです。
しかし、実際はブドウ糖以外にも脂肪など様々な栄養素を代謝するので、呼吸商を計算に含める場合、平均的な値であるR=0.8が採用されています。
これを含めて肺胞気酸素分圧を計算すると、
肺胞気酸素分圧=150mmHg - (40/0.8)mmHg
=150mmHg - 50mmHg
=100mmHg
となります。
この計算で酸素分圧の計算を最後まで進めていくと、最終的な動脈血酸素分圧は90mmHgとなりますね。
酸素分圧のまとめ
大気中の酸素分圧
760mmHg×21% = 160mmHg
吸入気酸素分圧
(760mmHg - 47mmHg)×21% = 150mmHg
肺胞気酸素分圧 ※呼吸商を含めない場合
150mmHg - 40mmHg = 110mmHg
動脈血酸素分圧
110mmHg - 10mmHg = 100mmHg
私達は大気中から息を吸い、このような過程を経てようやく動脈血内に酸素を取り込みます。
式の理屈は説明を一度理解してしまえばカンタンです。
問題は時間が経つと数値を忘れてしまうことです。
忘れたら何度でも確認しにきて思い出してください。
【参考にした教科書】
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