人工呼吸が生体に及ぼす影響

非生理的な人工呼吸

人工呼吸は患者さんの呼吸をサポートしてくれる治療ですが、

良いとこはもちろん悪いことだって起こります。

挿管を例に挙げればそもそも「侵襲的」に何かすることは非生理的です。

人工呼吸を理解するためには、まず人工呼吸が生体にどう影響するのかを理解することが大切です。

呼吸器系への影響

胸腔内圧に与える影響

自然な呼吸とは横隔膜を下げることで胸腔内を陰圧にし、

口や鼻の外にある空気が肺に吸い込まれていく吸気と、

肺・胸郭の弾力で受動的に行われる呼気が繰り返されることです。
 
 
 
人工呼吸では気道に陽圧をかけ、肺に空気を送り込むことで吸気を行わせているため、

吸気時には胸腔内圧は陽圧となります。

つまり自然で生理的な呼吸とは逆のメカニズムをとるワケで、

非生理的な呼吸は生理的な呼吸に比べてどうしても肺胞の広がりがイマイチだったり、

換気/血流比が不均等だったりします。

しかしそれを考慮した上でも、人工呼吸を行ったほうがまだ換気ができると判断された場合、

人工呼吸を導入するのです。
 
 
 

換気/血流比の不均等

健常人は仰臥位で自然呼吸を行うと、横隔膜の動きも背中側の方がお腹側よりも大きく動きます。

これは言い換えれば、換気は背中側の方が増大していると言えます。

そして血流も重力の関係で背中側の方が増加しているため、

健常人では換気/血流比はあまり変化していません。
 
 
 
しかし人工呼吸を仰臥位で行うと、血流は背中側の方が多くなっていますが、

気道に陽圧を加えるため、肺の上側の換気量が背中側の換気量よりも多くなり、

結果として換気/血流比は不均等になります。

生理的な自然呼吸に比べるとガス交換効率は悪くなっているということを意識して下さい。
 
 
 

肺胞虚脱

背中側の肺は重力の影響を受けやすい為、長時間同じ換気量で換気を続けると

背中側の肺は虚脱し、無気肺になりやすいです。

人工呼吸管理をしている患者さんは基本的に仰臥位の姿勢をとっているので、

この様なことになりやすいと言えます。
 
 
 

高い気道内圧が引き起こす影響

人工呼吸では気道・肺胞に加わる圧が高いため、肺の圧損傷を引き起こすことがあります。

特に気道に30〜40cmH2O以上の高い圧を長時間かけると

肺水腫様の肺障害を引き起こすと言われています。

循環器系への影響

静脈灌流量の減少

血液は心臓から拍出され、動脈から組織を経由して最終的に上・下大静脈から心臓に戻ります。

生理的な自然呼吸では胸郭内が陰圧になるワケですから、

同じ胸郭内にある静脈にも吸気による陰圧が影響し、血管が拡張します。

その結果、心臓へ還る静脈還流量は増加します。
 
 
 
一方で人工呼吸では吸気時に胸腔内圧は陽圧になるので、

胸郭内の静脈は圧迫されて静脈還流量は減少します。

呼気時の方が胸腔内圧は低下するので、呼気時に静脈還流量が増加するといった

非生理的な減少が起きます。

さらに心臓へ還る血流が減少するということは次に心臓から拍出される血流量も減少するという事です。

血流量が減少すれば血圧も下がりますよね。
 

 

自律神経系への影響

人工呼吸を開始する前の患者さんは、低酸素血症、高二酸化炭素血症、アシドーシス、

呼吸連動の負担、不安、ストレスなどにより、交感神経過緊張状態にあると言えます。

このため血圧も心拍数も増加しています。

人工呼吸によってこれらが解決されると、交感神経の緊張が一気にとれるため、

血圧低下をきたすことがあります。特に鎮静薬の使用下では注意しなくてはいけません。

神経系への影響

人工呼吸では吸気時の胸郭内が陽圧になるために、脳からの静脈還流量も阻害されて、

うっ血により脳圧が上昇します。

特に脳圧が上昇している患者では高いPEEPは避けるべきと考えられています。
 
 
 
また逆に、過換気により患者のPaCO2が低下すると脳の血管は収縮して脳血流量は減少してしまいます。

脳への血流が減少することは全身への神経系への影響、

機能障害などを引き起こすことがあるためとても危険です。

水分・電解質への影響

人工呼吸では、静脈還流量の減少による心拍数の減少から、抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が亢進し、

また腎血流量の減少やレニンアンギオテンシン系の活性化などから体液の貯留傾向がみられます。
 
 


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