血液ガスを評価する能力は集中治療室に勤務する全ての医療従事者に必要な力だと思います。
ラクテートは組織の酸素需要供給バランスを考える上で非常に重要です。
そんなラクテートについて、測定意義と測定結果から何を考えればいいのか考えたいと思います。
目次
そもそもラクテートとは
私は「ラクテートって何?」と聞かれたら、
それは「グルコース(糖)が代謝された時に、エネルギーと一緒に出来てしまう物だよ」と答えています。
順を追ってわかりやすく解説しますと、
食べ物摂取
↓
消化
↓
吸収
↓
グルコースが血漿に溶け込む
↓
グルコースが血流によって全身の組織に運ばれる
↓
グルコースが組織で代謝される(解糖)
↓
解糖されるとATPが産生され、エネルギーとなる
ここまでは食べ物がエネルギーに変わるまでの流れです。
この流れを医療スタッフらしく式で表すと、Glu+O2=ATP となります。
この式をもう少し詳しく表すと、
(Glu→2ATP)+(Glu→ピルビン酸+O2=CO2+H2O+34ATP)=36ATP+CO2+H2O となります。
この式から分かることは、組織に酸素が十分ある状態でグルコースが取り込まれれば、
1molのグルコースから36個ものATP(と二酸化炭素と水分)が生成されるという事です。
これを医療用語で好気性代謝といいます。
しかし組織が酸素の不足している状態の時にグルコースが運ばれてくると、
(Glu→2ATP)+(Glu→ピルビン酸→Lac)=2ATP+Lac
となり、1molのGluから2個のATPしか産生されず、さらにLacが産生されます。
組織の中で産生されたLacは血漿の中に溢れ出て、血ガスの検査結果としてLacが上昇するのです。
つまりLacが上昇するということは、その時にはすでに組織に酸素が不足しているということが分かります。
ちなみに生成されたラクテートはエネルギー産生に再利用されたり、再びグルコースに変換されたりします。
これを糖新生といいます。
なぜラクテートを測定するのか
次に「なぜラクテートを測定するのか?」です。
前の項目で説明したとおり、ラクテートの値によって組織の酸素の過不足が分かります。
要するに酸素の需要供給のバランスですね。
Lacの値が低ければ組織に酸素は足りている、Lacの値が高ければ組織に酸素が足りていないということが間接的に表されます。
Lacを測定するタイミングは
・末梢循環不全
・蘇生後
・低拍出量症候群
・血圧低下
・高度徐脈
・重度の心不全
・低酸素血症
・重度の呼吸不全
などです。
またLacは1回だけの測定では意味がありません。
一度測定したらその値から組織の酸素状況を把握し、その状況に応じた治療を行います。
そして血ガスを再検し治療が功を奏しているかを判断します。
ちなみに成人のLac基準値は0.56〜1.39mmol/L(5〜12mg/dL)です。
ラクテートの値から何を考えればいいのか
例えば心停止で運ばれてきた患者さんの蘇生後の血ガスを測り、Lacの値が10mmol/Lであったとします。
私の場合ですと次の様に考えます。
「心停止時間が長かったかな?」
「心停止中、組織への酸素供給が出来ていなかったからLacが一時的に高いのはしょうがないかな?」
「蘇生後の脳保護の為にも低体温にしないと。体温を下げられたら酸素需要量が減り、Lacは下がってくるかな?」
「ただし低体温にすると感染しやすくなるので注意しないといけないな。」
「鎮静・筋弛緩は十分かな?シバリングが起こっていると酸素需要量は増大するから複雑になってしまうな。」
「次の血ガス測定でどんな結果になるかな?」
PCPS・ECMOを導入している場合では、
「血圧は保っているけど組織に酸素を届けられているかな?」
「血圧を出すためにカテコラミンで末梢を絞めているから、末梢の循環が悪いのかな?
ECMOの送血量を上げられるなら、カテコラミンを減量できるかな?」
「そもそもECMOの酸素設定は適切かな?」
「呼吸器の設定はどうかな?肺の状態は?」
「血栓が飛んで末梢や主要動脈に詰まっていたら大変だ!ACTやヘパリン、血栓の状況は?」
「次の血ガスは何分後に測定しようかな?ACT再検と一緒に測定できたら効率がいいかな。」
この様にラクテートの値から考えていくことはたくさんあります。
もちろん上記以外のことも状況に応じて考えていく必要があります。
静脈血酸素飽和度(SvO2)を測定してみると別のヒントが見つかるかも知れません。
ラクテートの値が高い時、下がらない時、みなさんは何を考えますか?
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