【まとめ】透析で使用する抗凝固薬4種の半減期や使い分けについて

透析で使用される抗凝固薬まとめ

 
血液は異物に触れると凝固するという性質がありますね。

血液浄化や人工心肺など血液が異物と接触することを前提とする治療では、抗凝固療法が必須となります。

現在日本で透析療法を行うにあたり、使用の認可がとれている抗凝固薬には未分画ヘパリン(一般的にヘパリンと呼ばれるもの)、低分子ヘパリン、ナファモスタットメシル酸塩、アルガトロバンがあります。

今回はそれぞれの半減期や特徴、使い分けについてまとめました。

目次

血液が凝固する仕組みと凝固カスケード

抗凝固薬の違いと使い分けを考える前に、まずは血液が凝固する仕組みを理解しておきましょう。

凝固反応とは血管内に存在するさまざま種類の凝固因子が連続的に活性化され続け、最終的にフィブリンという物質の形成に至る反応です。

この反応のことを、血液の凝固カスケードと呼びます。

形成されたフィブリンは、傷ついた血管の修復等を行う場合に血小板の凝集によって施された一次止血を補強する様に二次止血へと繋いでいきます。

凝固カスケードの連鎖反応は少し複雑ですが、なるべくわかり易くまとめてみた次のイラストを見てください。

血液の凝固カスケード

(凝固因子はローマ数字のⅫやⅦなどで表されるのが基本ですが、ここでは目に馴染み易い様に数字で表現しています。)
 
 
凝固カスケード反応は、内因系の場合は凝固因子の12番から始まります。

血管内皮細胞の損傷や異物との接触を契機に12番が活性化し、12aとなります。

岡井さん
12aの「a」は、「active」を意味していて、「活性化した12番」というイメージです。
 
 
12aは凝固因子の11番を活性化させる作用があるので、11は11aになります。

同様に11aが凝固因子の9番を活性化させ、9aになります。

この様な反応が続いていき、最終的にフィブリンが形成されます。

イラストの通り、凝固カスケードはフィブリン形成までの道のりを連鎖的に下っていくので、どこかの道を遮断することで血液の凝固反応を抑制する事ができます。

それが抗凝固薬の役割りであり、どこの道を遮断するのかが使い分けのポイントとなります。

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ヘパリン

正確には未分画ヘパリン(UFH:Unfractionated Heparin)と言います。

(ヘパリンは分子量の大きさによって低分子ヘパリンなどと分別して使用されますが、まだ分画処理がされていない広い範囲の意味でのヘパリンを未分画ヘパリンと呼びます。)
 
 
【概要】
・半減期:45分〜60分(約1時間と覚える)

・分子量:3,000〜25,000

・抗凝固の作用機序:
ヘパリンの凝固カスケードと作用機序

投与されたヘパリンは、まず血管内のAT3(アンチトロンビン3)と結合します。

ヘパリンと結合したことで活性化したアンチトロンビン3は、凝固因子の2a(トロンビン)、10a、9a、11a、12aに対して活動を自粛するように働きかけます。

特に2a(トロンビン)と10aに対しての働きかけが強いので、ここだけ覚えておいても大丈夫だと思います。

イラストでも2a(トロンビン)と10aのみに対して作用している様に表現しています。
 
 
これらの凝固因子の作用が抑制されるので、凝固カスケードは先へ進めなくなり、結果的にフィブリンの形成が抑制されるのです。
 
 
ここでポイントとなるのは、ヘパリンはアンチトロンビン3欠乏症の患者さんに対しては有効に働かないと言うことです。

前述した通り、ヘパリンはアンチトロンビン3と結合して2a(トロンビン)などの凝固因子の作用を抑制するので、そもそも血管内にアンチトロンビン3が足りていないと十分な効果を発揮できないのです。

アンチトロンビン3異常症の患者さんの場合は、次項で示す【アルガトロバン】を使用します。
 
 
※アンチトロンビン3の検査基準値は、
 定量:15.0〜31.0mg/dL
 活性:81〜123%
 
 
 
【使用方法】
・透析開始時に初回投与として20〜50単位/kg(だいたい1000〜2000単位ほど)をワンショットする。

・透析中は約500〜1500単位/hrほどの持続投与を行う。

・しかし未分画ヘパリンの効果は患者ごとに個人差があるため、血液の活性化凝固時間(ACT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、回路内の血栓の様子をモニタリングし、ACTなら150〜200秒程度をキープできるように投与量を調節する。
 
 
 
【注意点】
・出血性病変を合併している場合は、抗凝固状態による出血に注意する。

・AT3欠乏症の患者に対しては作用が不十分である。

・ヘパリンは陰性荷電のため、陽性荷電膜や陰イオン交換樹脂に吸着されてしまう。

・脂肪分解作用による脂質代謝異常で、不整脈や高脂血症を招く恐れがある。

・骨脱灰作用により、骨粗鬆症や腎性骨栄養症を招く恐れがある。

・血小板活性化作用がある。

・ヘパリン起因性血小板減少症(HIT:Heparin Induced Thrombocytopenia)の発生に注意する。
 
 

 

低分子ヘパリン

低分子ヘパリン(LMWH:Low Molecular Weight Heparin)は、未分画ヘパリンを分子量3,000〜8,000の低分子量の範囲で分画したヘパリンです。
 
 
【概要】
・半減期:3時間〜4時間

・分子量:3,000〜8,000

・抗凝固の作用機序:
低分子ヘパリンの凝固カスケードと作用機序

低分子ヘパリンは、未分画ヘパリンと同様にまずはアンチトロンビン3と結合して抗凝固作用を発揮しますが、2a(トロンビン)に対する作用はほとんど無く、10aに対してのみ強い阻害効果を発揮します。
 
 
生体内における凝固時間の延長は2aに対する抑制作用に影響を受けやすく、体外循環中の凝血抑制は10aに対する抑制作用に影響を受けやすいとされています。

低分子ヘパリンは体外循環回路内での抗凝固作用を強く保ちつつ、生体内での凝固時間の延長は軽度に抑える事ができるといった特徴があります。

低分子ヘパリンもアンチトロンビン3と結合して10a因子への作用を抑制するので、未分画ヘパリンと同様に、そもそも血管内にアンチトロンビン3が足りていないと十分な効果を発揮できません。

しかし血管内での凝固反応としての凝固カスケードが完全に断たれる訳ではないので、軽度の出血傾向のある患者にも比較的安全に使用可能できます。
 
 
 
【使用方法】
・低分子ヘパリンは半減期が長いため、初回投与のみでの使用が可能。

・初回のみの単回使用では、透析開始時に7〜13単位/kgに対して透析予定時間を掛けた量(だいたい1000〜2000単位ほど)をワンショットで投与する。

・低分子ヘパリンの場合は透析終了時の回路内血栓の具合を確認し、次回以降の参考にするように調節する。
 
 
 
【注意点】
・長時間の治療では投与量のACTによるモニタリングが用意でない。
(※ソノクロットという測定装置ではモニタリング可能)

・AT3欠乏症の患者に対しては作用が不十分である。
 
 

ナファモスタットメシル酸塩

【概要】
・半減期:約8分

・分子量:539

・抗凝固の作用機序:
ナファモスタットメシル酸塩の凝固カスケードと作用機序

ナファモスタットメシル酸塩は蛋白分解酵素阻害薬であり、血液凝固のカスケードが一連の酵素反応であることから凝固系各酵素の作用を抑制し、結果的に凝固の進行を抑制します。

さらにその効果は凝固系だけでなく、キニン・カリクレイン系、プラスミンの線溶系など体外循環時に活性化される多くの酵素系にも及ぶとされています。

未分画ヘパリンでは活性化してしまう血小板の凝集をも抑制します。

また半減期が約8分と非常に短いため、その抗凝固効果が血液浄化での回路内にほぼ限局されるのが特徴です。

トロンビンに対する阻害作用は、アンチトロンビン3に非依存的に発現します。
 
 
 
【使用方法】
・ナファモスタットメシル酸塩は初回投与を行う必要はなく、透析のプライミングを行う際に生理食塩水500mLに対し20mgのナファモスタットメシル酸塩を混ぜたもので回路内を充填し、透析を開始する。

・透析中は5%ブドウ糖液に溶解したナファモスタットメシル酸塩を0.1〜1.0mg/kg/hrの持続投与で行い、未分画ヘパリンと同様にACTを150〜200秒程度をキープできるように投与量を調節する。

(ただしACT測定に使用されるカオリンという成分がナファモスタットメシル酸塩を吸着してしまい、正しい値が出ない事があるので、凝固活性剤にセライトを用いた「セライト法」を用いてACTを測定する事が望ましい。)
 
 
 
【注意点】
・ナファモスタットメシル酸塩は陽性荷電のため、PANなどの強い陰性荷電膜では吸着され、効果が弱まる。

・分子量も非常に小さいため透析性があり、効果が弱まる可能性がある。

・稀にアレルギー反応がある。

・半減期が非常に短いため、透析回路の終盤であるVチャンバーの辺りに血栓が出来やすい場合がある。その様な場合は通常の抗凝固投与ラインに加え、Vチャンバー内へ直接投与する方法もある。
 
 

アルガトロバン

【概要】
・半減期:約30〜40分

・分子量:約530

・抗凝固の作用機序:
アルガトロバンの凝固カスケードと作用機序

アルガトロバンは合成抗トロンビン薬と呼ばれ、2a(トロンビン)に対して選択的に結合してその活動を抑制させる様に働きます。

この際、未分画ヘパリンや低分子ヘパリンとは異なり、アンチトロンビン3を介することはありません。

その為アンチトロンビン3欠乏症の患者さんに対しても抗凝固作用を発揮する事ができます。

現在アンチトロンビン3欠乏症、さらにヘパリン起因性血小板減少症(HIT)に対して保険適応となっています。
 
 
 
【使用方法】
・アルガトロバンは透析開始時に初回投与として、0.2mg/kg(だいたい10mgほど)を投与する。

・透析中は0.1〜1.0mg/kg/hr程度の持続投与を行い、APTTが60秒以上となる様に適宜調節する。
 
 
 
【注意点】
・抗トロンビン作用が強く、さらに半減期が30〜40分と長いため、出血傾向にある患者さんに使う場合は注意が必要である。
 
 
 
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