心電図において、心筋虚血の指標となるST部分の変化を観察することは、患者さんの心筋がどれほどの障害を受けているか予測する上で非常に重要です。
ST変化は時として、患者さんの心臓に致命的なダメージを残す事象の前ぶれでもあるからです。
そもそもなぜST変化が起こるのでしょうか?
その仕組みを理解しておけば、上昇か低下かどっちだったけ?なんて事も無くなるかも知れませんし、心電図がもっと面白くなります。
今回は心電図のST変化の仕組みについて解説したいと思います。
目次
心電図と電気信号
心電図は体表に電極を貼ることで、心臓の興奮における微弱な電気信号を捉え、波形として画像化しています。
興奮電位(電流)が電極を貼ってある方向に向かう様に流れると、心電図の波形は大きく、上向きに描かれます。
逆に興奮電位が電極から遠ざかるように流れると、波形は小さく下向きに描かれます。
例えば同じタイミングでとった12誘導心電図の、Ⅱ誘導では波形が大きく描かれ、aVR誘導では波形が小さく描かれるのは、この様に心電図電極を貼っている位置と電気の流れる向きが異なる為です。
心筋虚血と障害電流
心筋は3つの層になっていて、内部の方から、心内膜→心筋→心外膜とうい構成になっています。
この心外膜の外に心膜腔があります。
冠動脈の狭窄などで心筋への血流が阻害されると、心筋は内部の方からダメージを受けます。
そしてダメージを受けた心筋からは、炎症による障害電流が発生します。
ST低下の仕組み
1)冠動脈に狭窄が生じ、心筋への血液供給量が低下する。
2)心筋のダメージ(炎症)は心内膜側から起こる。
3)ダメージを受けている心内膜側から障害電流が発生し、正常心筋の方向に向かって流れる。
4)心電図では、電極から見て向かってくる電流の影響で、基線が上がる。
5)脱分極(興奮)した時には心電図上すべての電位が等しくなる。
つまり、心電図のST部分では障害電流の影響は受けずに元の位置まで戻るので、ST部分が低下する(ように見える)。
こうして心電図のST低下という現象は起こります。
ST上昇の仕組み
心筋へのダメージが慢性化し貫壁性心筋梗塞となった時、STは上昇します。
貫壁性(かんぺきせい)とは文字通り、炎症が心内膜の範囲を超えて心筋の壁全体を貫く程に広がった状態を意味します。
STの上昇は、STの低下の全く逆の仕組みで起こります。
1)冠動脈の狭窄が、高度〜完全閉塞に陥り、心筋への血液供給の低下が慢性化あるいは断絶されると、その部分の心筋全体(心内膜・心筋・心外膜)に炎症が広がる。
2)炎症によって発生した障害電流は正常心筋の方向に向かって流れるのだが、この場合は心電図電極から見ると結果的に遠ざかる様に流れる。
3)心電図は、電極からみて遠ざかる電流の影響で、心電図の基線が下がる。
4)脱分極(興奮)した時は心電図上すべての電位が等しくなる。
つまり、心電図のST部分では障害電流の影響は受けずに元の位置まで戻るのでST部分が上昇する(ように見える)。
こうして心電図のST上昇という現象は起こります。
なぜ心電図のST変化を気にするのか?
ここまでの説明で理解できたと思いますが、心電図のST変化は虚血による心筋の炎症(ダメージ)の程度を表しています。
この炎症が心筋全体に広がり、ST変化が顕著に現れ改善しなければ、ゆくゆくはVT(心室頻拍)やVF(心室細動)といった致死性の不整脈が発生する恐れがあります。
心電図のST変化を確認した場合は、CAG(冠動脈造影検査)にて冠動脈を評価し、必要であればPCI(経皮的冠動脈形成術)も併せて行います。
虚血を解除する為の対処を早急に行いましょう。
心電図と電極の位置
心電図の変化は、心筋で発生する電位が電極に向かうか遠ざかるか、そしてその電位が大きいか小さいかで決まります。
心電図から患者さんの状態を正しく把握するためには、電極を正確に貼られている事が大前提となります。
胸骨や肋骨の真上に貼ってしまうと、骨が邪魔をして小さな波形になってしまう事もあります。
また 12個ある誘導を見比べてみると、STが上昇している誘導があるのに、下降している誘導も同時に確認できることがあります。
これは鏡像変化と呼ばれる現象で、心電図電極を貼っている位置に関係してます。
詳しくは別の投稿で解説していますので、参考にしてみてください。
また、ST変化の仕組みについてはYouTubeでもフルアニメーションで説明しています。
電流の流れや波形の動きがよりイメージしやすいかと思います。
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