先日、ゆうじICU・ER先生、うし先生プレゼンツ、抗血栓Youtubeライブにコメンテーターとして参加させて頂きました。
コメンテーターとは名ばかりのイチ傍聴者でしたが(汗)、たくさんの先生方の考えや意見を聞き、自分の無知さに焦りを覚え、これをキッカケに抗血栓療法について改めて勉強しました。
今回学んだ事と、新たに勉強した知識を忘れない様に備忘録としてまとめ、ここに残しておきたいと思います。
目次
DAPTとは
DAPT(通称ダプト)とは、Dual Anti Platelet Therapyの頭文字をつなげたもので、抗血小板薬2剤併用療法の事を言う。
PCI(経皮的冠動脈形成術)の治療で使用される冠動脈ステントは人工物なので、術後にステント内血栓症を起こすリスクがある。
これを防ぐ目的で、PCI術後はほぼ全例でDAPTの導入が行われる。
DAPTは言葉通り2種類の抗血小板薬を用いるが、基本的にはアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬が使用される。
なぜ抗凝固薬ではなく、抗血小板薬を用いるのか?
血栓が生成される原因として、血小板系と凝固系の働きが関わっている。
冠動脈に生じる血栓は主に血小板系が関与しているので、抗血小板対策をした方が効率がいいのである。(動脈の様な血流の速いところでは血小板が活性化されやすく、静脈の様な血流の遅いところでは凝固因子が活性化されやすい。)
ちなみに血小板成分を多く含んだ血栓を血小板血栓(白色血栓)と良い、凝固因子の成分を多く含んだ血栓をフィブリン血栓(赤色血栓)と言う。
STARS試験では、
①アスピリン(抗血小板薬)のみ
②アスピリン + ワーファリン(抗凝固薬)
③アスピリン + チクロピジン(チエノピリジン系抗血小板薬)
で比較し、③の抗血小板薬を2剤併用した群で圧倒的に有効だったとの報告がある。
このことから、現在でも抗血小板薬を2剤併用する方法がとられている。
DAPTに使用される抗血小板薬の種類
アスピリン
一般名:アスピリン
商品名:バイアスピリン
アスピリンは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)であり、シクロオキシナーゼ(COX)阻害作用を有し、抗炎症・抗血小板作用としてだけでなく解熱鎮痛薬としての効果もある。
妊婦やアスピリン喘息に対しては禁忌。
抗血小板作用としては、血小板凝集に関わるCOX-1を阻害して血栓形成を抑制する。
クロピドグレル
一般名:クロピドグレル硫酸塩
商品名:プラビックス
チエノピリジン系抗血小板薬である。
ADP受容体サブタイプのP2Y12を選択的に阻害する事でcAMPが上昇、細胞内Ca2+が低下し、血小板凝集が抑制される。
これにより血栓形成を抑制する。
プラスグレル
一般名:プラスグレル塩酸塩
商品名:エフィエント
クロピドグレルと同様、チエノピリジン系抗血小板薬である。
同じくADP受容体サブタイプのP2Y12を選択的に阻害する事で抗血小板作用を発揮し、血栓形成を抑制する。
プラスグレルはクロピドグレルと比較して、小腸や肝臓での活性代謝物の産生効率が高く、迅速に作用し個人差が少ないという特徴がある。
DAPTでの組み合わせ
DAPTでは言葉通り、上記の抗血小板薬から2種類を併用するわけだが、実際はアスピリンとチエノピリジン系(クロピドグレル or プラスグレルのどちらか)で行う。
つまり、
①アスピリン + クロピドグレル
②アスピリン + プラスグレル
の組み合わせから選択される。
なぜ2剤使う必要があるのか?
PCI術の考案初期、治療に用いられるステントはただの金属製のステント(ベアメタルステント)だったのだが、この頃から人工物であるステントを留置する事で起こるステント内血栓症の解決が課題だった。
当初はPCI後にアスピリンに加え抗凝固薬を併用する方法が行われていたが、これによるステント内血栓症の予防効果は薄かった。
しかしアスピリンに加えチエノピリジン系抗血小板薬を追加する方法がとられる様になってから、ステント内血栓症が劇的に改善した。
現在PCIで主流となっているのは、表面に薬剤が塗布されたステント(DES:Drug Eluting Stent)だが、これも遅発的にステント内血栓症が起こる事があるので、今でもアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬によるDAPTが標準となっている。
どれくらいの期間DAPTを行うのか?
ベアメタルステントの時代(過去)
ベアメタルステント留置後より1ヶ月以内のステント内血栓閉塞の発生率が高かった。
よって当時はベアメタルステント留置後1ヶ月間はDAPTを行い、その後はSAPT(Single Anti Platelet Therapy )を行っていた。
DESの時代(現在)
DESはステント表面に塗布された薬剤の効果によりステントの内皮化が遅れるので、DAPTの期間は長くなる。
ACS(急性冠症候群)では、DAPTの期間は約1年間とガイドラインにて推奨されているが、出血のリスクが高い症例では半年でもいいと言われている。
1年以降はSAPTに以降するが、2剤のうちどちらを残すのがより効果的なのかはエビデンスが無いのが現状。
一方で、30ヶ月間はDAPTを継続した方が予後が良かったとの報告もある。
DAPTスコアや出血のリスクを考慮して症例に合った方針を立てるのが良いのかと考える。
安定冠動脈疾患では、DAPTの期間は約半年とガイドラインにて推奨されている。
ただし出血のリスクが高い症例では約3ヶ月でもいいと言われている。
最終的には患者の症状・状態と、PCIでどの様な大きさ(長さ・径・数)のステントを留置したのか、どの様な置き方をしたのか、等を考慮し、医師によって総合的に判断される。
おわりに
以上が私が調べてわかったDAPTの要所の部分です。
私は機械の操作・管理を専門として行う臨床工学技士です。
もちろん自分が関わる治療に関連する薬について一通り調べはしますが、やはり専門分野である機械という無機質なものの対極に位置する薬については若干の苦手意識があります。
現場で技士が薬を準備する事もないですし、処方することもありませんが、「知っておく」ことは大事だと思っています。
今回ライブをきっかけに復習し、たくさんの知識を得ることができましたが、やはり専門分野ではないので間違いがあるかも知れません。
もし何かお気づきになることがあれば、そっと教えて頂けると幸いです。
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