【人工心肺】体外循環開始時のイニシャルドロップについて その対応策と予防法

人工心肺,イニシャルドロップ

 
体外循環を開始すると、血行動態が低下します。

これは体外循環時のイニシャルドロップ(初期血圧降下)と呼ばれるものです。

なぜこのような事象が生じるのかそのメカニズムと対応策・予防法について解説します。

 
 

イニシャルドロップの原因

1.脱血過多による血管内ボリュームの低下
脱血量が多く血管内ボリュームが低下すると血圧は維持できにくくなってしまいます。
 
 
 
2.血液の希釈による血液粘性の低下
血液はヘモグロビンによって粘性を保っていて、ある程度の血圧を維持しています。

プライミング液が体内に入り血液が薄まることで、粘性が低下し血圧が低下します。
 
 
 
3.内因性カテコラミンの減少による末梢血管抵抗の低下
プライミング液が体内に入ることで血液は希釈され、元々体内に存在している内因性カテコラミンの分布が相対的に下がります。プライミング液の量が多い時には注意が必要です。
 
 
 
4.肺代謝産物の温存
本来血液は循環の過程で肺を通る事で、血管拡張作用のあるプロスタグランジンを代謝し、全身循環へと移行します。

人工心肺開始時は、右房で脱血した血液を大動脈へ向かって送血します。

つまり生体肺を通らずプロスタグランジンが未代謝な血液が全身へ流れるので、血管が拡張し血圧が低下します。
 
 
 
5.血液が異物と接触することで起きる血管拡張
ブラジキニンは血管拡張をきたす血管作動性ペプチドと呼ばれる物質です。

体外循環を開始し、血液が異物と接触することで凝固カスケード反応が進みますが、その過程で生成されるブラジキニンもinitial dropの原因とも考えられています。
 
 

イニシャルドロップ時の対応

 
イニシャルドロップへの対応は状況によって異なるので、その時々のバイタルに注目し対処することが大切です。

血圧を上げる手段としては、

1.脱血量を抑え、自己肺への循環を維持する
 
2.温度コントロールによって血液温を下げ、血液粘性を上げる
 
3.Flowを増やす
 
4.薬剤によって末梢血管抵抗を上げる

 
 
などが考えられます。

また対処というよりは対策として、プライミング液に血液を充填し体外循環を開始することで、血液希釈の予防・血液粘性の維持が可能なことからイニシャルドロップを軽減することが出来ます。

さらに、血液充填を行う小児症例において、充填された血液に対して血液濾過を行い溶質除去された充填血液回路で体外循環を開始したところ、

イニシャルドロップはなくなり血行動態の改善・浮腫の軽減に有効であったと報告されています。
 
 

 
 
四津 良平 (編集), 平林 則行 (編集)
 
 


5 件のコメント

  • L より:

    初めまして、以前調べた時には他の所でここまで書いていただいているようなのは、なかったのでとても勉強になりました。
    循環を見るときに疑問に思っても詳しく書かれてなかったり、どんな風に調べればいいのかわからずにいました。
    ありがとうございました。

  • MK より:

    はじめまして、とてもためになる情報ありがとうございます。

    イニシャルドロップが予後に関係する等のデータは出ているのでしょうか?
    不勉強で恐縮ですが、調べても出てこないのでもしご存知であれば教えていただきたいです。
    よろしくお願いします。

    • 岡井さん より:

      ご質問ありがとうございます。
      言われてみれば、人工心肺開始時のinitial dropと予後に関するデータは私も読んだ事ないです。怠っておりました

      ただ私の考えとして、initial dropは発生のメカニズム・人体への影響は解明されており、どの教科書にも書いてある事実です。術中に起こり得る現象の1つですので、予後と言うよりはその場でいかに適切に対処するかが大切と考えています。

      • MK より:

        ご回答ありがとうございます。

        やはり予後には影響しないぐらいの事象なんですかね…(・・;)
        それでも多少なりとも低血圧を回避するに越したことはないはずなので、今後もイニシャルドロップが生じさせない、生じた場合は適切に対処するという考えでいきたいと思います。

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